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 この記事が配信されるのは9月30日17時。時差が1時間あるので、その8時間後に中国は建国記念日に当たる国慶節を迎える。

 1949年10月1日、毛沢東は北京・天安門広場で中華人民共和国の成立を宣言した。明日はちょうど建国70周年に当たる。香港の行政長官・林鄭月娥も北京入りして祝典に参加する予定だ。

 中国政府が、この最も晴れやかであるべき日までに香港デモに対して強硬手段を取り、事態収拾を図るのではないかという観測が一部にあった。

 そんなことができるのか、という読者もおられるだろう。できるかできないかで言えば、法的には「できる」というのが正解だ。

 香港にとって、そのあり方を根本で規定する「憲法」に当たる「香港特別行政区基本法(以下、香港基本法)」を見てみよう。以下の訳文は、日本貿易振興機構・アジア経済研究所の小林昌之によるものを用いた。

第2条 全国人民代表大会は、本法の規定に照らして香港特別行政区に高度の自治を実施し、行政管理権、立法権、独立した司法権および終審権を享有する権限を授ける。

第4条 香港特別行政区は法に依り香港特別行政区の住民およびその他の者の権利および自由を保障する。

第5条 香港特別行政区は社会主義の制度および政策を実行せず、従来の資本主義制度および生活様式を保持し、50年間変更しない。


 英国からの返還時に香港に課せられた「50年のタイマー」は、この第5条によって定められたものだ。第2条で行政、立法、司法の三権を享有する「高度な自治」を認め、第4条で権利と自由を保障している。ここまで読むと、「50年」という時限こそあれ、香港に対しては、法の観点からはかなり根本的な自治権が与えられていることが分かる。

 だが、読み進めていくと第2章の以下の一文に当たる。

第14条 中央人民政府は香港特別行政区の防衛の管理に責任を負う。香港特別行政区政府は香港特別行政区の社会治安の維持に責任を負う。中央人民政府から防衛の任務を負って香港特別行政区に派遣、駐留する軍隊は、香港特別行政区の地方事務に関与しない。香港特別行政区政府は必要なとき、社会治安の維持および災害救助のために駐留軍の協力を中央人民政府に要請することができる。駐留軍要員は全国レベルの法律を遵守するほか、香港特別行政区の法律も遵守しなければならない。駐留軍の経費は中央人民政府が負担する。


 前段には、国家として、他国による侵略からの「防衛」は中央政府の役割で、香港内の「治安維持」は香港政府の役割だと明記してある。香港政府は、この原則にのっとって、治安維持のための実力部隊としての警察をもってデモ隊の鎮圧を図っている。だが、香港政府は「必要なとき」に、「災害救助」のためだけでなく、「治安維持」のためにも駐留軍の協力を要請することができる、とも後段に書かれている。