その夜、見慣れた街は市街戦の舞台になった
午後10時を過ぎるころ、いくつかの路地に分散していたデモ参加者の多くはそれぞれ警官隊の圧力により散り散りになり、警官隊の一部もバスに乗って退き始めた。
だが、やがて警官隊に追われて散ったデモ参加者たちはテレグラムで連絡を取り合い、再び終結して最後に残った勢力に合流した。青山公路との交差点に向かう鳳翔路の北側に集まった人数は100人を超えていた。一方、もはや大勢は決したと判断して撤退を始めていた警察側は数が少ない。シュプレヒコールを上げながら押し進むデモ隊に対峙する警官隊はおよそ30人ほどに過ぎなかった。
警官隊は盾を掲げてデモ隊に威圧を加えるが、人数差は如何ともしがたい。押されるように、じりじりと後退していく。
その数分後、交差点の手前で警官隊が「警告 催涙煙」と描かれた幕を掲げた。文字通り、催涙弾を使用することを警告するものだ。デモ参加者から、もはやそれを喜ぶかのような怒声が上がる。

警官たちは自分たちの顔を覆う防毒マスクのベルトを締め、空気の漏れを試している。それまでもデモ隊の前でガスマスクを装着して見せて催涙ガスの使用を匂わせることで威圧を加えることは何度もしてきたが、今回はどうやら本気らしい。
拡声器で警告を発しているが、広東語なので聞き取れない。おそらく催涙ガスの使用を警告し、解散を求めているのだろう。それまでのアナウンスは時折英語も交えていたが、それもない。
やがて催涙弾が夜空に幾筋かの弧を描いた。

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