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ここ数カ月で10人前後の若者が死んでいる

 これから、少なくとも本稿を含めて8本ほどの記事を連載「香港2019」として書いていく。

 日本ではほとんど報じられることはないが、香港のデモでは、ここ数カ月で少なくともすでに10人前後の若者が死亡している。デモ鎮圧のために装甲車は出ていないし、警察や軍の銃から実弾が市民に向けて放たれたことは一度もない。彼ら彼女らは自ら命を絶った。

 政治を理由に自死を選ぶということに対する想像が私には及ばなかった。そこには、どれだけの絶望と怒りがあるのか――。

 9月21日の夜、香港郊外の街・元朗(ユンロン)で警察とデモ隊の間に立った。黒ずくめ重装備の警官たちはデモ隊を威圧し、デモ隊は罵声と怒号で応えた。挑発に怒ってデモ参加者に殴りかかろうとした警官を同僚が羽交い締めにして止めている姿も、警察車両に投石する若者の姿も見た。午後10時を過ぎた頃、目の前で催涙弾が放たれた。

警官たちが防毒マスクを装着した。デモ隊も催涙弾に備え始める。(写真以下3点/的野弘路)
警告後に催涙弾が放たれた。火花が散り、煙が立ち込める。
刺激臭の強い気体を吸い込むと咳が止まらなくなる。防毒マスクをしていると楽だが、露出した肌が熱く痛む。

 もはや修復不能と思われるほど、抜き差しならない対立と言っていいだろう。催涙ガスが目の粘膜と気道と肌を刺す痛みを感じ、止まらない涙と咳(せき)に苦しみながら、私はかつて住んだこの街を覆っている対立と断絶の深さを思わずにはいられなかった。もう引き返すことはできないのか――。