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現金はどこにいっているのか

システムやネットワークの問題はどう解決するのでしょうか。

平井氏:日本は海外と比べても現金流通量が増えているまれな国だが、こうした現金はいったいどこにいっているのか。想像でしかないが金利が低いためタンス預金になっている可能性がある。金利を金融機関のサービスとして考えたとき、サービスレベルがずっと上がってこなかった。逆に言えば、金利が上がればみな当然銀行に預金するはずだ。

 そして多くの金融機関にとって経産省が唱える「2025年の崖」(編集部注:古いシステムの温存が企業をむしばみ競争力を失わせること)という問題がある。これまで使っていたシステムが重荷になってくる。後発企業はレガシーシステムがない分、システムにかかるコストが安い。

 多くの企業にとって思い入れがあるシステムを捨て切れず、変化ができない。明らかに生産性が向上すると分かっていても、相応の導入コストがかかる。単純にクラウドへ移行すべしといっても、その上で動かすアプリケーションはすべて作り直さなければならず、コストもそれなりに発生してしまう。判断する覚悟が問われている局面だ。

日本ではレガシーシステムの保守に費用を取られ、攻めるためのIT投資にお金が回っていません。

平井氏:IT基本法(高度情報通信ネットワーク社会形成基本法)が施行されたのは2001年。当時の趣旨は新しく登場したインターネットをインフラとして国民が安心して使えるようにという法律だった。だが、当時のセキュリティーの概念はすなわち通信の安全であり、クラウドの概念も当時はなかった。社会全体にデジタルを実装するという概念がそもそもなかった。

 当時と比べると平成の日本はデジタル化によるインパクトを甘く見てしまった感がある。「デジタイゼーション(digitization)」と「デジタライゼーション(digitalization)」はそもそも意味が異なる。デジタイゼーションはアナログのものをデジタル化することを意味するが、デジタライゼーションはビジネスモデルそのものを変えるということ。

 例えば、テレビでいえばアナログ放送がデジタル放送に変わったのはデジタイゼーションだが、Netflix(ネットフリックス)やHulu(フールー)といった月額課金で映画やテレビ番組が見放題になるサブスクリプション型のビジネスモデルの創出はデジタライゼーションといえる。日本はデジタイゼーションはある程度進んだものの、新しいビジネスが生まれずデジタライゼーションに出遅れた。通信回線の品質は著しく向上したにもかかわらずだ。

 NHKもしかりだ。アナログからデジタルに変わった際、スクランブルをかけられるはずだったにもかかわらず、徴収料のあり方を根本的に見直すというところまで至らなかった。そこをN国党(NHKから国民を守る党)に突かれた。自身の反省でもあるが、デジタルがビジネスモデルを変えるまでのインパクトがあるということを当時の我々がきちんと認識していればという思いはある。

日本は今後どうすればいいのでしょう?

平井氏:日本が今、問われているのは何か。

 超高齢化社会で人口減少という現実に直面し、地球温暖化の影響で災害も頻発している。こうした状況下で、デジタル化に取り組んでいるが、デジタル化のメリットを100%社会に実装したらどれだけ世の中がよくなっていくかということを国民全員が共有できていない。成熟国家として、果たしてこうした諸問題を解決できるのか、デジタル化によって社会をよくできるのかという問いに答えを出していかなくてはならない。

 自民党内に設置されているIT戦略特別委員会を「デジタル社会推進特別委員会」と名前を変え、枠組みを変えたのには理由がある。高齢者の方々にとって、「デジタル」という言葉はあまり心地よくないだろう。これは様々な声を聞いていると実際にそう思う。

 デジタルによって住みやすい空間ができるんだということを我々は証明していかなければならない。デジタルに取り残された高齢者もいれば、次々と生まれてくる若い世代、すなわちデジタルネーティブ世代もいる。社会像、理念、哲学のようなものを国民と共有しながら進めなければならない。こうしたものを早い段階で提示できなければ、デジタルの社会への実装は加速しない。

 デジタルによって圧倒的に便利になるのは間違いない。だが、諸手続きが紙からデジタルに変わったというだけでは誰にもそのメリットは伝わらない。圧倒的な便利さをデジタル弱者にも享受してもらうためにはどうすればよいか。キャッシュレス化も同じ文脈で考えるべきだ。今のキャッシュレス化は手段が目的化されてしまっている。