政府の旗振りで進められている日本のキャッシュレス化。だが、このままでは最終的な目標として掲げている80%に達するのは難しいのではないか。日経ビジネス11月18日号特集「誰が得する〇〇ペイ キャッシュレスの闇」では、顕在化している問題に加えて、根深く残る構造的な問題にも光を当てた。キャッシュレス社会に向け、持続可能な取り組みはどうあるべきか。前IT・科学技術担当大臣で現在、自民党デジタル社会推進特別委員長を務める平井卓也衆院議員に話を聞いた。

1958年1月25日生まれ、香川県出身。2000年6月、第42回衆議院選挙に出馬し、初当選。以来、当選回数7回。2018年10月、第4次安倍改造内閣の内閣府特命担当大臣として初入閣を果たした。現在は自民党デジタル社会推進特別委員長。(写真:村田 和聡)
政府はキャッシュレス社会に向けて様々な方策を繰り出していますが、日経ビジネスと日経クロストレンドの共同調査では増税に合わせた還元ポイント施策の影響が限定的であることが分かりました。
平井卓也氏(以下、平井氏):要するに対中国だ。中国にキャッシュレス化であそこまで離されて、慌てて一気に進めようとしているのが現状だ。経済産業省もどちらかというと深く考えていないのではないか。2025年までに40%、その後は80%まで目指すとしているが、果たしてこういう社会を国民が求めているかどうかをもう一度立ち止まって考える必要がある。
デジタル化そのものが目的になってはいけない。我々の住んでいる空間はいつの時代もアナログ空間だ。それは未来永劫(えいごう)変わらない。人がストレスなく、自分の時間を有効に使い、幸せを感じるために何をすればいいのか。令和の時代は高齢化がさらに進む。人口の半分以上が50歳を超える時代だ。こうした社会でデジタル化を進めようとするとき、サステナブルに進化していくためのイメージを皆で共有しないまま進めてしまうと今のようなことが起きる。国民本位に立ち戻る必要がある。
IT・科学技術担当大臣時代、デジタルファースト法を成立させました。その過程で印章制度、いわゆるハンコが果たして必要かどうかという議論が急浮上しました。現金とハンコは根底で同じ問題として捉えてよいでしょうか?
平井氏:少し次元の違う話だ。ハンコは本人確認手段として脆弱であることは間違いない。一方、貨幣に目を向けると日本はATMも整備され、偽札の流通もない。極めてクオリティーの高い現金社会を創り出している。だが、デジタルのメリットを社会に実装するという観点で見ると、キャッシュレス化は明らかにメリットがある。私はタクシーに乗るたびに運転手に現金決済比率を聞いているんだ。そうすると東京では明らかに現金決済が減っているとはっきり言うよ。
実際、外国人が多く訪れる場所は現金だけじゃもたないだろう。でも、キャッシュレス化はニーズがなければ進まない。例えば、英国はキャッシュレス化を強力に推し進めたものの、格差が生まれ、キャッシュレス弱者をどうするかという議論になっている。
増税に伴うキャッシュレス決済のポイント還元施策についても、世代や地域間で活用に大きな差が出ている。東京で若い人の集まりに行くとほぼ全員活用しているが、地元の高齢者の会合に行って聞くと1人か2人しか活用していない。キャッシュレス決済がなんとなく怖いという。こうした人たちの感情も理解していかなければならない。
だが、国民にとって折り合えるところがきっとあるはず。そこを探すべきだ。完全なキャッシュレス社会は電力供給の問題もあり、リスクをはらむ。ユニバーサルにインフラを整備できるのかという問題もあるし、デジタル弱者への対応を考えるとうまく進めていかなければならない。
日本は海外と比べても手数料が高止まりしています。構造的な問題を抱えたままキャッシュレス化に舵(かじ)を切っても、早晩行き詰まりを見せるとみています。
平井氏:矢継ぎ早に計画を進めても、現金流通の現状がなくなる日がくるとは思えない。例えば、クレジットカード業界の構造を見ると分かりやすい。収益構造を見ると誰ももうからない状態だ。こんな複雑な業界は他にない。
システムやネットワークの利用料の負担がかかり、結果、コストがかさんでいるという現実がある。では、クレジットカード会社が使えるデータを持っているかというと何もない。実質的に活用可能なデータを持っているのはPOS(販売時点情報管理)データを握っているところくらいだろう。
今、(各社が採算度外視で)顧客を囲い込もうとしているのは、データを利活用するというビジネスモデル。だが、こうしたデータがマーケティングの高度化にどれだけつながるかは未知数のままだ。
PayPayやLINE Payの勢いはすごい。この先、どこかに収れんしていき、そこがインフラとなっていくのだろう。先行していた新興企業が力業で進めている囲い込みに対抗するのは正直大変かもしれない。
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