10月21日号の日経ビジネス特集「さびつく現場力 磨けば光る『日本流』」では、疲弊する商品開発現場の様子も描いた。これまで通りのやり方ではもはや勝ち目はない。そんな危機感を持って、商品開発の現場力向上に動き出したのがパナソニックだ。2017年4月、「デザイン」の視点でアイデア創出から商品化までを一手に担う専門組織を立ち上げた。いわば、デザイン思考で現場力を取り戻す試みだ。その成果が少しずつ出始めている。

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 JR浜松町駅から徒歩約7分。オフィスビルの1室に足を踏み入れると、黒で統一された机や椅子が並ぶ光景が広がる。ガラスの一部分には太陽光で色が変わるフィルムが張られており、スタートアップのオフィスのように見える。

 この部屋の名は「FUTURE LIFE FACTORY(フューチャーライフファクトリー)」。パナソニック全体のデザインを統括する「デザイン本部」傘下の専門組織だ。ミッションは、顧客の潜在ニーズを深掘りして、デザインの視点でこれまでにないプロダクトを生み出していくこと。つまり商品開発の「現場力」を変えるための取り組みとなる。

パナソニックのFUTURE LIFE FACTORYとメンバー(写真:陶山勉)
パナソニックのFUTURE LIFE FACTORYとメンバー(写真:陶山勉)

 FUTURE LIFE FACTORYは17年4月に設立。生みの親であるデザイン本部の臼井重雄本部長は家電を中心にプロダクトデザインを長らく続けてきた人物だ。約9年間の中国勤務を経て、16年に家電のデザイン部門に戻った。「中国ではすでにIoTやAI(人工知能)などが家電の世界に導入され、デザインを含めた商品開発が大きく変わろうとしていた。なのに日本に戻ると依然として既存製品の深掘りに終始していた」と振り返る。そして強烈な危機感を持った。「これじゃ勝てない」

パナソニックデザイン本部の臼井重雄本部長(写真:陶山勉)
パナソニックデザイン本部の臼井重雄本部長(写真:陶山勉)

 約27万人の従業員を抱える巨大組織だけに、すぐに組織は変えられない。ならば、「いったん事業とは切り離したうえで動く」(臼井氏)。こうした考えで誕生したのが、現在のFUTURE LIFE FACTORYだ。

 現在のメンバーは6人と少数精鋭だ。家電や住宅などのデザイナーに加えて、ハードやソフトの技術者から成る。家電や住宅などの事業部門から選抜された。事業部門の枠から離れることで、これまでの延長上にないプロダクトのアイデア出しから試作、商品化までを目指している。

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