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日経ビジネスは10月14日号の特集「トヨタも悩む新50代問題」で、これまでのような人件費抑制では対応できない中高年の処遇に関する問題を指摘した。

特集でも触れた通り、日本自動車工業会の豊田章男会長(トヨタ自動車社長)や経団連の中西宏明会長(日立製作所会長)が終身雇用の限界について相次いで指摘している。今年に入って企業経営者がタブーを口に出した理由は何なのか。専門家に聞いた。

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大久保幸夫氏
リクルートワークス研究所所長
1983年一橋大学経済学部卒業。同年株式会社リクルート入社。1999年にリクルートワークス研究所を立ち上げ、所長に就任。2010~2012年内閣府参与を兼任。2011年専門役員就任。人材サービス産業協議会理事、Japan Innovation Network 理事、産業ソーシャルワーカー協会 理事なども務める。専門は、人材マネジメント、労働政策、キャリア論

大久保幸夫氏(リクルートワークス研究所所長):正社員を簡単に解雇できないという、いわゆる「解雇ルール」は変えられません。いや、変えられないと思われてきました。「変えよう」なんて政治家が言ったら次の選挙で落選するくらいのタブーだったんです。国民は安定を求めており、解雇ルールは圧倒的な支持基盤を持っています。だからこれまで、思っていたとしても誰も公には口にしなかった。アンタッチャブルでした。

 しかし、今年に入って、ついに豊田章男さんや中西宏明さんなどの企業経営者がこの問題を口にし始めた。少なくともこの問題についてより合理的に考えるのは政治家ではなく経営者だということでしょう。そして、タブーを口にしなければならないほど危機感が強くなっています。

 その危機感は、シニアの問題に起因しています。

 日経ビジネスが創刊した50年前、一般的な定年は55歳でした。年齢構成上、この55歳という年齢は合理的でした。その後、定年は60歳に延長されました。政府は多少強引にこの改正を通したのです。その後、多くの企業は55歳前後を「役職定年」としました。つまり、55歳から60歳までの5年間はサッカーで言えばロスタイム(アディショナルタイム)みたいなものでした。この状況がしばらく続きました。

 ところが2004年にさらに法律が改正され、企業に65歳定年を求めました。これに経済界は反対しましたが、結局、改正されました。この改正によって、多くの企業は60歳から64歳まで、再雇用という形で雇用を延長し始めました。ロスタイムがさらに延びたわけです。

 でも、企業はシニアの活用策をまだ詰めきれていません。実際に、できていないんです。そんな状況で「今後は70歳定年だ」という議論が始まっています。これに対して「冗談じゃない」というのが企業側の本音だろうと思います。

 終身雇用を含む日本型雇用は成長を前提にしたモデルです。高い成長率が続けば、質の高い労働力を安定的に得られるという点で非常に優れたモデルでした。だから1980年代までの日本には非常にフィットしました。

 ところがバブルが弾けると、日本型雇用は「放っておいたらコストが増えていく構造を持つ」と批判されました。給与が年功で膨らんでいくので、企業が成長しなければどんどん重くなっていく。いろんな人が疑問を持つようになりました。ただ、成功体験があるのでなかなか抜け出せなかったのです。

 その後、景気の山谷がある中で、日本型雇用は「限界を迎えている」「いや、再評価すべきだ」という声が行ったり来たりして、それが失われた20年の間、ずっと続きました。限界が見えつつ、次の最適解が見えないまま、建物で言えば増築改築を繰り返している状況です。

 ただ、今度こそシニアの問題が引き金になって、日本型雇用が崩れていくのではないか。私はそう考えています。