富士通がシニア社員の活用で今春、ひっそりと方針を転換した。3年半前、子会社に集めたシニア社員を、再び本社に吸収したのだ。モチベーションが低下しがちな役職定年を迎えた50代社員などを別会社に集め、富士通本体と異なる処遇で活性化させる施策だったが、「効果があった」として本体に再び吸収した。背景にあったのは人手不足。富士通で何が起きているのか。

(10月14日号特集「トヨタも悩む 新50代問題 もうリストラでは解決できない」も併せてご覧ください)

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富士通は役職定年を迎えるなどしたシニア社員の活性化に取り組んでいる。写真は2019年9月の経営方針説明会(写真:つのだよしお/アフロ)
富士通は役職定年を迎えるなどしたシニア社員の活性化に取り組んでいる。写真は2019年9月の経営方針説明会(写真:つのだよしお/アフロ)

 2019年4月、富士通の100%子会社の1社がひっそりと本体に統合された。社員数は500人超。「シニア社員の活躍のための新会社」をうたって15年10月に立ち上げた会社だ。社員のほとんどが55歳超である。

 富士通ビジネスマネジメント本部の佐藤渉人事部長は、「喫緊の課題だった中高年社員の活性化につながる柔軟な制度をスピーディーに立ち上げる『特区』として、富士通クオリティ&ウィズダム(FJQW)を設立した」と、設立当時の狙いを説明する。つまり、多くの企業が頭を悩ます「50代問題」の解決策を、シニア社員を別会社に集約することに見いだそうとした。だが、その一方で、「この会社に異動を命じられた当初は、会社から戦力外通告されたように感じた」(FJQWに所属していたある社員)との声も漏れていた。

 わずか3年半の活動期間で、いったん子会社に集めた中高年社員を再び本体に吸収する方針に転換した富士通で、何が起きていたのか。子会社に中高年社員を集めるという人事施策が失敗したのではないかとの見方もあるが、佐藤部長はむしろ「成功したからこそ本体に取り込もうと判断した」と説明する。どういうことか。

 FJQWの取り組みは、日本型雇用が染みついた富士通が編み出した、苦肉の策だった。佐藤部長は、「富士通全体の制度を変えるのはどうしても時間がかかる」と語る。だからこそ「特区」として、まずは子会社化することが必要だったというわけだ。

 終身雇用を前提とした新卒一括採用、給与体系、昇格制度、労働組合との取り決めなど、富士通にも日本型の雇用慣行が隅々まで染みついている。そうした中で、「幹部社員」と呼ばれる管理職の社員が55歳から段階的に役職定年を迎えている。若手にポストを譲るためには役職定年制度は必要だが、一方で、役職定年後の中高年社員の処遇に頭を悩ませていた。

 そこで考えたのが、役職定年を迎えたシステムエンジニア(SE)をFJQWに転籍させ、別の給与体系で処遇するという作戦だった。転籍した社員は、元の職場や新しい職場から業務委託を受ける形で、自らの専門性を生かした業務に就く。