新卒でも年収1000万円以上――。NECが10月から新たに導入した賃金制度は、新卒一括採用などに象徴される「日本型雇用」と比べるとかなり異なる。背景には、GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コム)や国内のメガベンチャーとの激しい人材獲得競争に直面し、何とかして優秀な研究者を獲得したいというNECの焦燥がある。

 従来の年功序列的な要素を残す賃金体系は維持しつつ、学会発表の実績などを基に社員の技術レベルを4段階に分類した等級制度を新たに設けている。これまでも報酬の上限をなくす制度はあったものの若手は対象外だった。新制度は20代の若手から中堅社員の研究員約300人が対象となっている。

 なぜ、報酬の上限を廃した賃金制度を新たに設けたのか。NECの西原基夫CTO(最高技術責任者)に聞いた。(10月14日号特集「トヨタも悩む 新50代問題 もうリストラでは解決できない」も併せてご覧ください)

NECの西原基夫CTO(最高技術責任者)
NECの西原基夫CTO(最高技術責任者)

なぜ今、「新卒でも年収1000万円以上」を稼げる可能性がある賃金制度を導入したのですか。

西原基夫氏(NEC・CTO=最高技術責任者、以下、西原氏):これまでNECでは、ある程度年功序列的な要素を残した賃金制度が運用されていました。会社全体で、入社時に年齢と学歴でグレードが決まるという制度となっていたのです。しかし、それでは優秀な人材をスタートアップや外資系企業に奪われてしまうようになりました。新制度の導入は、年功序列を払拭することが一つの大きな目的です。

 現状、データサイエンス系の人材の給与水準は急激に上がっています。一方、賃金制度については、社会全体で見直しが進んできています。GAFAや中国のトップ企業と同水準の給与を提示しなければ優秀な人材は採用できなくなっているし、研究員のモチベーションも下がってしまいます。

 NECは米国、ドイツ、シンガポール、中国、インド、イスラエルと日本を含め世界に7カ国に研究拠点があります。かつては「日本は日本、米国は米国」と現地の事情に合わせて、賃金制度も運用していました。だから、海外と日本では研究員の給与水準にギャップも生じていました。そこが大きな課題だったこともあり、今回の制度新設につながったのです。

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