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ソフトバンクは通信会社と勘違いさせた

 正直に言うと、事業が軌道に乗ってきて自分の後継問題などを考え始めたときに、事業に対する燃えるような面白み、戦っているという血湧き肉躍る気持ちが薄れてしまいました。危機に見舞われたり、戦ったりしているときに、生きがいを感じるのかもしれません。

もがいているようなときですか。

孫氏:そうそう。そのときは苦しいのですが、何か生きていることへの実感を得られるというようなものがあるのかもしれません。事業家として会社は伸ばしていたのですが、ある程度軌道に乗ってくると、ただ日々を過ごし、後継のことばかり考えるような、正直言うとそういう部分が若干ありました。

 ただ、その後、大きなパラダイムシフトで今からAI革命が勃興すると自分なりにはっきりと認識したところで、もう一度闘志が湧いてきたんですね。ソフトバンク・ビジョン・ファンドをやるんだと決意して。ここでは多くのプレーヤーを束ねて同時多発的に攻め込んだ方が、早く大きな勝負ができる。今度こそ天下を取れるかもしれないと考えたのです。

 その前のインターネット革命では天下を取り損ねているわけです。なんぼか小さな成功はしていますが、その他大勢の一つにすぎない。勝者は米グーグルや米アマゾン・ドット・コム、米アップル、米フェイスブックなのです。彼らに比べると、実にチンケな存在で恥ずかしいと思っています。今日はかなり正直に言っちゃっていますが。

ネット革命の勃興期には彼らの企業規模も大きくはなく、ヤフーで検索エンジンもやっていたときは、天下に指先がかかっていたのかもしれませんね。

孫氏:指はちょっとかかっていたが、するっと天下は逃げていってしまった。

アマゾンに投資するチャンスもありましたよね。

孫氏:そう。アマゾン創業者のジェフ・ベゾスCEO(最高経営責任者)にも話していました。取り逃がした魚の話をすると悔しくなるからあまり言いたくないのだけど。当時もインターネット群戦略をやりたい、やるべきだと思いましたが、ネットバブルがはじけて軍資金がついてこなかった。当時はネット財閥とかいって僕なりの戦略はあったのです。

 当時はインターネット群戦略をやりたいと思っていました。しかしネットバブルが弾け、どん底のときに、日本のインターネットは価格が高くスピードが遅いという状況だったので、ある種の正義感でインフラを変えなければならないと考えました。当時はNTTが日本のインターネットインフラの99%を支配していました。その彼らが天下国家を考えていなかったので、私は義憤で参入しましたが、本当はやるべきではなかった。

 天下取りの戦略や構造の中でヤフーBBは、ある種の寄り道だったのです。そのことがソフトバンクは通信会社であると多くの人を勘違いさせた。実はそこに心の中のモヤモヤがずっとありました。ただ、通信事業は立派な社会インフラの一つであるので分離・独立し、本業としてやるべき宮内謙(ソフトバンク社長)を中心とする幹部たちに任せました。 

 自分が一番やるべきである戦略の本流に戻そうというのが、ビジョン・ファンドです。インターネット革命からもう一度、AI革命というチャンスが訪れてくれたので「よっしゃー」と、もう一回天下取りに挑むぞというのがビジョン・ファンドなのです。AI時代の若い起業家たちと交わり、心の中にもう一度天下取りという夢を描いたときに、僕の事業家としての本能が再び燃えたぎって、もう幸せでしょうがない。今、僕はもう一度若返って、毎日が楽しくて仕方がありません。