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日経ビジネス9月30日号の特集「リブラ・インパクト お金と国の進化論」では、米フェイスブックが6月にデジタル通貨「リブラ」の構想を発表して以来、様々な議論が出ている「お金」について取り上げた。金融とITが融合したフィンテックの進化がこうした議論の背景にあるが、決済・送金の分野もフィンテックで大きく変わりつつある。メタップスに在籍した荻原充彦氏が立ち上げたpring(プリン、東京・港)が提供するのは、個人間の送金が無料、銀行口座への振込手数料も無料という、業界でも珍しい送金アプリだ。「無料にすることで新しいお金の回り方が生まれる」と主張する荻原CEO(最高経営責任者)に話を聞いた。

様々なスマホ決済アプリが乱立する中、お金のコミュニケーションアプリ「pring(プリン)」を開発した狙いは何ですか。

荻原CEO(以下、荻原):プリンは「お金の通り道の摩擦をなくす」というビジョンを掲げ、18年3月にサービスを開始した無料送金ツールです。ATMの振込手数料やクレジットカードの決済手数料など、我々が決済や送金をする際には、必ずといっていいほど手数料が何らかの形でかかります。決済インフラを維持するために必要不可欠な経費とはいえ、送金・決済金額が少額であればあるほど割高になりやすい。今の金融システムでは、100円とか500円を遠い人に送ろうとするだけで、途端に不便になります。こうした障害をなくせば、少額のお金のやり取りがもっと活発になり、新しいお金の回り方が生まれるのではないかと考えました。

 金融の知識やリテラシーがなくても、損しない世の中を作りたかったという思いも大きいです。大学卒業後、しばらくフリーターをしていた時期がありました。多くの日雇いで働く人と知り合いになりましたが、その際、2000円、3000円をATMから引き出すのに、数百円の手数料を当たり前のように払っている人がたくさんいました。これではいけないと感じました。

荻原充彦(おぎはら・みつひこ)氏
板前から大和総研の情報技術研究所の研究員に転職、その後銀行設立プロジェクトに参画、大和ネクスト銀行を立ち上げる。2012年、DeNAにてEC事業戦略室、新規事業部での仕事に携わり、14年からメタップスに参画。そこから独立する形で17年から現職。

プリンにはどういう使い方があるのでしょうか。

荻原:なかなか会う機会のない人と飲み会に行って、費用を立て替えてその日は別れたけど、ちょっと請求しづらい。こうした経験は誰もが一度は持つものでしょう。でもプリンを使えば問題は一発で解消できます。プリンのアプリの「お金をおくる」ボタンを押して送信先を選べばお金が手数料無料で送れます。他にも、自分の代わりにちょっとした用事をしてくれた人にお礼をしたり、複数の人からお金を集めてプレゼントを贈ったり、様々な使い方ができます。プリンから銀行口座にお金を移す際も、手数料はかかりません。出金する手数料も、セブン銀行を使えば1日1回まで無料です。他社の個人間送金アプリは出金手数料などが通常かかりますが、なるべく無料で済むように設計しました。

 チャット機能も付いているのでお金のやり取りをする際にちょっとしたメッセージのやり取りもできます。お金が少額になればなるほど、しらばっくれられたり回収しづらくなったりするのも事実。そんなとき、メッセージ機能を使って「返してください」と言う方が、直接面と向かって言うよりも言いやすい。それに、メッセージのやり取りそのものが証拠となり、信用を表すようになります。きちんと支払ってくれる人なのか、支払いの悪い人なのか。メッセージの履歴を見ることで判断できるようになります。

 普段、ちょっと不便に感じているお金のやり取りを、新しいプラットフォームの構築によってやりやすくする。そうすることで、新しい市場も創出されるでしょう。現在、副業やダブルワークなど、多様な働き方が生まれています。報酬のやり取りに、いちいち個人の口座を申請したり登録したりするのは不便でしょう。そんなときに、プリンを使ってくれればうれしいですね。

組織に属さなくても容易に収入を得られる

新しい働き方を支える仕組みにもなるわけですね。

荻原:お金の動きが活発になると、今まで価値がつかなかったものにも価値がついたりします。ちょっとした個人の特技や趣味をSNSやインターネット上で披露し、広告収入だけでなく、不特定多数からお金をもらうといったこともできるようになります。組織に属さなくても、個人で容易に収入が得られる仕組みができれば、より「個」の力が強くなる社会に変わると思います。

 思えば今までの決済や送金は、手数料がかかることもあり、企業から個人、組織から個人と、極めて硬直的になりやすかった。プリンを使うことで、個と個の間のやり取りを活発にし、新しい価値交換の輪を広げられれば本望です。プリンを開始して約1年半がたちましたが、ユーザーは数十万人、1年で150億円ものお金がやり取りされています。

プリンのビジネスモデルはどうなっているのでしょうか。

荻原:個人間の送金はすべて無料ですが、事業者向けの決済システムを有料で提供しています。現在、個人事業主、中小店舗を中心に2万店の登録があり、登録店でプリンを使ってQRコード決済ができます。その際に事業者から決済手数料0.95%を頂いておりまして、それがプリンの収入となります。0.95%という数字は、他のQR決済会社の3~4%よりも安い、業界最安値です。また今後、加盟店に対して集客支援機能を付けたり、ユーザーの店舗での購入履歴を提供したりすることなども考えています。