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 特定の地域のみで流通する「地域通貨」が再び盛り上がりの兆しを見せている。地域経済の活性化や相互扶助を目的に1990年代に広まり、一時は世界で5000以上、日本でも650以上の地域通貨があったとされる。その後、管理者の負担の重さから多くの地域通貨は姿を消した。だが、スマートフォンなどの普及を受け、デジタル技術を活用して使い勝手を高めた地域通貨が相次いで誕生している(日経ビジネス9月30日号の特集「リブラ・インパクト お金と国の進化論」参照)。法定通貨とは別の通貨を発行することで、地域を自分たちの手で盛り上げていこうという動きが広がる。

地域通貨でしか買えない商品を開発

 岐阜県高山市を中心とした地域で10月中旬をめどに、「円では買えない商品」が発売される。円の代わりに使えるのは、地元の飛騨信用組合(岐阜県高山市)が2017年から発行する地域通貨「さるぼぼコイン」。「イタリア料理店の裏メニューのカツ丼」や「地元の子育て女性が作成したグルメマップ」など、その地ならではの商品を、さるぼぼコインで売り出す。グルメマップを販売予定のHidamommy(ヒダマミー)の周真希子代表は、「地元のママたちは、豊富な情報を持っている。それを生かしたい」と話す。1部100円程度で販売する予定だという。

 さるぼぼコインは17年12月の開始以来、使える場所が1000店規模まで広がり、地域通貨の成功例とされている。その理由の1つとして挙げられるのは、さるぼぼコインがスマホとQRコードを活用した電子地域通貨であることだ。利用者は、市内に設置されているチャージ機などで入金し、スマホアプリでさるぼぼコインを受け取る。買い物をするときは、店に設置されたQRコードをスマホで読み込む。店側は、QRコードの書かれた紙を置くだけで特に投資は必要ない。こうしたインフラが整っているため、新しいサービスの追加も容易にできる。

スマートフォンにさるぼぼコインをチャージして使用する。支払いのときは、レジ横にあるQRコードを読み込む

 一方で、悩みもある。設置コストの低さから加盟店は一気に広まったが、「消費者の利用を促すことに課題があった」(飛騨信用組合の古里圭史総務部長)。いくらインフラが整っていても、地域の店に「買いたい」と思わせる商品がなければ消費者は買ってくれない。そこで生み出されたのが、さるぼぼコインでしか買えない商品だ。高山市や近隣の市町村は、世界遺産の白川郷など観光名所が多く、国内外から大勢の観光客が訪れる。ガイドブックには載っていない観光ができることをうたい、さるぼぼコインでしか買えない商品を売る。

税金や給与の支払いにも活用

 地域通貨を使える範囲は広がり始めている。

 例えば、税金の支払い。高山市は、市県民税や固定資産税、軽自動車税などの納付手段としてさるぼぼコインを受け付けている。納付書のバーコードをスマホで読み込むことで、自宅などでも納付できる仕組みだ。飛騨信用組合は新電力のイーネットワークシステムズとも連携し、電気料金の支払いもさるぼぼコインでできるようにしている。

 千葉県木更津市は11月から、同市の君津信用組合が発行する地域通貨「アクアコイン」を市職員の給与の支払いに活用する。市は、給与のうち各職員の希望額を君津信用組合の口座に振り込む。君津信用組合はそれをアクアコインとして職員のスマホアプリに送る仕組みだ。職員はアクアコインを加盟店での買い物で使える。

 従来の地域通貨は、使える範囲が地域の商店街などに限られていた。だが、税金の支払いや公共料金などにも使途が広がれば、住民の生活全般を支えるものとなり得る。ゆくゆくは地域通貨で独自の経済圏を作ることも視野に入るかもしれない。

 これまで地域通貨には「おままごと」「今までうまくいったためしがない」と否定的な意見も根強かった。現在うまくいっているとされる地域通貨でも、QR決済をした際のポイント還元の原資を国の財源に頼るなど、自立できているものはあまりない。

 世界の中でも急速に高齢化が進み、地方の疲弊が問題となっている日本で、地域通貨がどんな役割を果たせるのか。9月に高山市で開催された地域通貨研究者たちの国際会議でも参加者たちから「日本の取り組みには注目している」という意見が聞かれた。デジタル技術の活用で、「ままごと」から抜け出した通貨を作れるかが問われている。