米フェイスブックが6月に発表し、世界を揺るがせたデジタル通貨「リブラ」。その動向に主要各国の政府や中央銀行関係者が神経をとがらせている。日経ビジネス9月30日号の特集「リブラ・インパクト お金と国の進化論」では、技術の進化がもたらしたデジタル通貨の潜在力や、それが国家をはじめとする既存社会に及ぼしうる影響などを論じた。

 人々は自分の使う通貨を選び、ゆくゆくは所属する国家すら自らの意思で選ぶようになる――。そんな時代の到来を前にして、「選ばれる国」であり続けようとするのがバルト3国の1つ、エストニアだ。

 2000年代に入ってからオンラインで使える電子ID(身分証明書)や国家規模のデータ交換システムといった情報インフラを整備してきた同国政府は、14年に「電子居住権(Eレジデンシー)」という制度を開始。オンラインでの法人登記や納税といった利便性の高い行政サービスの一部を国外に向けて開き、仮想的なエストニア国民ともいえる「電子居住者」を世界中で募り始めた。

丸紅が現地拠点を置くタリン市内の共同オフィスビル
丸紅が現地拠点を置くタリン市内の共同オフィスビル

 そうした動きに引かれるのはフリーランサーやスタートアップだけではない。2019年4月、スタートアップ投資を主な目的に、エストニアの首都タリン市に現地拠点を新設した日本の総合商社、丸紅もその1社だ。

 「商社として伝統的なビジネスでは強みがあるが、デジタル分野での新規事業創出には課題を感じてきた」。そう語るのは、タリンに駐在する丸紅の大美賀剛氏。着任以来、投資対象としてだけでなく自社事業とのシナジーを見込めるスタートアップを探して、現地の起業家ネットワークの開拓を続けている。

丸紅進出の背景にスマートシティー事業

 なぜ丸紅はエストニアを選んだのか。理由の1つは、エストニアが張り巡らせている情報インフラの可能性だ。「あくまで一案だが、丸紅がアジア圏で取り組むスマートシティー事業で、エストニア企業の知見が生かせるかもしれない」(大美賀氏)

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