全2253文字

日経ビジネス9月30日号の特集「リブラ・インパクト お金と国の進化論」では、技術の進化がもたらしたデジタル通貨の潜在性や、それが国家をはじめとする既存社会に及ぼし得る影響などを論じた。リブラはドルやユーロといった、既存の法定通貨を超える存在になるのだろうか。国際金融の最前線に長らく身を置いてきた元財務官の渡辺博史・国際通貨研究所理事長に聞いた。

米フェイスブックが構想しているデジタル通貨、リブラはこれまで登場したビットコインやイーサリアムなどの仮想通貨と何が違うのでしょうか。

渡辺博史・国際通貨研究所理事長(以下渡辺):2018年3月にアルゼンチンのブエノスアイレスで開催されたG20(20カ国・地域)財務相・中央銀行総裁会議では、初めて仮想通貨について本格的な議論が交わされました。仮想通貨を通貨としての特性を欠く「クリプトアセット(暗号資産)」と位置付けることが決められたばかりです。従ってリブラも、通貨ではなく暗号資産というのが国際金融の世界における見立てとなるでしょう。

 だが、個人的にはこうした分類はどうもしっくりきません。リブラは「通貨」や「資産」というよりも、「Payment Settlement Tool(支払いや決済のための手段)」と考えた方がよい。銀行よりはるかに広い範囲で、ほとんどコストをかけず送金できるシステムになることをうたっているからです。

渡辺博史(わたなべ・ひろし)氏
1972年東京大学法学部卒業、同年大蔵省(現財務省)に入省、米ブラウン大学経済学系大学院留学、大蔵大臣秘書官、国際局長、財務官などを歴任。2007年退官後は日本政策金融公庫副総裁(国際協力銀行経営責任者)、12年に国際協力銀行副総裁に就任、13年から16年まで同総裁、16年10月から現職。

価格変動は抑えられる

 送金システムとしては、機能するものになるでしょう。なぜなら、ビットコインなどと違いリブラは既存の法定通貨4~5種類にリンクする仕組みであるといわれているからです。価格変動はこれまでの仮想通貨と比較して、かなり抑えられる。

 ビットコインも当初は中央アジアなどで送金に使われていましたが、発行総量に限度があるため、取引量が増えると需給ギャップが生じやすくなり、それが大きな価格変動を生む要因の1つとなってしまいました。

 モノやサービスの値段を表示するのは、通貨の重要な機能の1つです。1日に2~3割も価格が変動するようでは、モノの値段や価値を正確に表示できません。昨夏までは1ビットコインで冷蔵庫が買えたのに、冬になったら10ビットコイン必要になりました、ではダメなのです。