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 伊藤教授は「高齢者はベテランドライバーでもある。運転に慣れすぎて、1つ1つの動作を意識していないことがある。それがアクシデントに見舞われた時に体が反応しないという事態につながる」と指摘する。警察庁の調べでは、2019年上半期に起きた75歳以上の高齢運転者による死亡事故の要因のうち、ハンドルの操作ミスやブレーキとアクセルの踏み間違いなどを含む「操作不適」が原因だったものは34%。75歳未満の運転者の場合はこの割合が12%だった。

 高齢ドライバーによる事故の抑制には、免許返納や公共交通機関の利用を促すことも手段のひとつではある。しかし、富士河口湖町のような地域では車が日常生活に欠かせず、自主返納を促すのは現実的でない。小佐野氏は「免許の返納促進は一時しのぎにしかならない。高齢者に自分の運転能力を把握してもらいつつ、できるだけ長く安全に運転してもらうことの方が有益だ」と話す。

 75歳以上の免許保有者は18年末で563万人。政府は自動ブレーキなど安全機能がついた車種のみを運転できるようにする高齢ドライバー専用の運転免許の創設を検討している。ただ、新免許は義務付けではなく選択制になる見込みで、どれだけの事故抑制につながるかは不透明だ。

 伊藤教授は運転できる時間や地域を限る「限定免許」の創設を訴える。運転できる範囲を「日中」「自宅の周辺」「一般道のみ」と時間や場所で制限をかける仕組みは欧州や米国、オーストラリアの一部の地域が導入している。伊藤教授は「個々人の能力に合わせて、免許更新のたびに『限定』を付けていけば、本人にも危機感が芽生え、将来の車のない生活を想定できるようになる」と考えている。