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 日経ビジネス9月23日号の特集「判断力低下社会」では、高齢ドライバーによる交通事故が目立つなか、加齢に伴い運転能力がどの程度低下するのかを取り上げた。4月に東京・池袋で母子2人が死亡した事故の後は、免許返納の機運も高まっている。一方で、地方都市や山間部は生活に車が欠かせず、免許の返納や運転の自粛に簡単には踏み切れない。山梨県富士河口湖町は「安全運転できる期間をいかに長くできるか」をテーマに掲げた取り組みを10年以上続けている。

富士河口湖町が開くセミナー。今年の開講式には44人が参加し、シミュレーターの使い方の説明を受けた

 同町の65歳以上人口は4月1日時点で6628人で、町民の25%が高齢者。河口湖を囲むように集落が点在し、路線バスの運行本数は観光客向けの周遊バス以外は午前と午後で3本ずつ程度と少ない。地域によっては公共交通が全く通っていない場所もある。町民にとって、車は生活する上で欠かすことができない。

 同町は2009年度から高齢ドライバー向けに「シニアドライバーセミナー」を実施している。山梨大学などの協力を得ながら、70歳以上の高齢者を対象に毎年40人前後が受講し、現在までの参加者数は延べ約400人に達した。

 8~12月にかけて開くセミナーでは、シミュレーション機器を使った運転トレーニングや認知機能の検査を通じ、「脳機能年齢」や「安全運転意識」「心身の健康」などを点数化して把握できる。「現在の自身の運転に関する能力を知ってもらう」(同町)のが目的。成績が悪くても、免許の返納を呼び掛けたりすることはないという。

 8月21日に町役場で開いた今年のセミナー開講式には70~91歳の44人が参加した。「(池袋の事故など)高齢者による事故が連日報道されたこともあったためか、定員を超える申し込みがあった。関心の高さを感じている」と福祉推進課の小佐野一磨氏は話す。

 この日はドライビングシミュレーターの使い方を説明した。ハンドルとアクセル・ブレーキを使いながら、ディスプレー上に現れた車を安全に走行させる。高速道路を模した走行画面には、時折正面に障害物が現れる。左右、後方の安全を確認しつつ、とっさの判断で車線を変更できるかによって、安全運転の技術と視野の広さ、判断力を測ることができるという。

 シミュレーターの開発に携わった山梨大学の伊藤安海教授は「シミュレーションでは1つ1つの動作を意識しなければ安全に運転ができない。これによって有効視野と脳機能を向上させることができる」と語る。

 町が継続して参加を呼び掛けていることもあり、参加者にはリピーターも多い。78歳の男性は「これまではバックミラーを見るべき場面でも後方確認を怠っていた。講習を受けてから安全運転を心がけるようになった」と話した。別の参加者は「『自分は高齢者』という意識を持って運転するようになった」という。高齢者の意識改革につながっているようだ。