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 何かと非効率でムダな作業の目立つ物流の世界。日経ビジネス9月16日号「物流革命 フィジカルインターネット」では、ヤマトホールディングスなどの物流大手に加え、テック企業など新たなプレーヤーが物流分野に続々参入して、物流システムを再構築する動きを追った。米国や欧州、そして日本で起こりつつある物流革命。中国にも新たな発想で物流の効率化を目指す動きがある。けん引するのは同国EC(電子商取引)最大手のアリババ集団だ。

 シャンプーや歯ブラシなどの日用品からカップ麺やパンなどの食料品やジュースや水などの飲料品が所狭しと並ぶ。店舗のサイズは小さいが、ちょっとした買い物なら、事足りる。こんな店舗があちこちにある中国。その数は600万店ともいわれる。

アリババは街中の小さな店舗を物流の拠点に位置付ける(写真:ユニフォトプレス)

 こうした店舗を宅配拠点に位置付け直したのが、中国のEC(電子商取引)最大手、アリババ集団だ。自社のネット通販サイト「天猫」の名前をあしらった「天猫小店」と呼ばれる加盟店は中国全土ですでに数万店。彼らがネット通販で購入された商品を顧客の手元に届けるための「ラストワンマイル」で重要な役割を果たすことになる。

 加盟店になるには、主に3つの条件がある。①店舗の決済時にはアリババが提供するPOS(販売情報管理)システムを導入する②商品全体の約3割をアリババ傘下の卸会社から仕入れる③店舗に冷蔵庫を備えている──。

 一見バラバラの条件のように見えるが、ネットのデータをリアルの世界へ還元するための仕掛けだ。

 

 まずアリババが自社のネット通販サイトから得た顧客データと、店舗にあるPOSデータを使うことで、それぞれの店舗ごとに商品の需要予測ができるようになる。例えば、「高級住宅街に近い天猫小店の近くでは、高級豆を使ったコーヒーを買う人が多い」といった具体的な情報を加盟店側は知ることができる。加盟店はこうした売れ筋情報を基に商品を仕入れれば、売り上げの拡大が見込める。アリババも商品の売り先がネットだけでなく、リアルな世界にも広がる利点がある。

 3つ目の条件である冷蔵庫は中国ならではの発想かもしれない。

 中国の家庭では塊の肉を購入し料理する場合が多く、ネット通販での注文も増えている。冷温物流のネットワークが中国でも広がっているとはいえ、冷凍の肉を顧客の玄関先まで運ぶのは手間がかかりすぎる。

 そこで、活用するのが天猫小店だ。ここが冷凍した肉を各家庭に配送する拠点となる。顧客が店舗に足を運んで直接、商品を受け取ることもできるし、顧客がスマートフォン(スマホ)を介してフードデリバリーの宅配員に商品を店舗から自宅に運んでもらうことも可能になる。

 アリババのネット通販サイト「天猫」の1年間の流通総額は日本円で約90兆円、スマホ決済サービス「支付宝(アリペイ)」の利用者も世界で10億人を超える。中国のネット通販事情に詳しい東海大学の小嵜秀信客員准教授は「リアルとネットの融合を進め、情報とモノをつなげている」と、アリババの天猫小店の取り組みを評価する。

 アリババは2017年に1000億元(約1兆5000億円)を物流分野に投資すると発表、物流インフラの整備に力を入れている。広大な中国でいかに効率よくモノを運ぶか。ネットとリアルの世界をデータを軸に融合させる発想は、欧米の物流業界を中心に取り組み始めたフィジカルインターネットの考え方そのもの。アリババは物流分野でも世界の先頭を走ろうとしている。