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 創業から30年あまりで米国が危険視する巨大通信企業となった中国の華為技術(ファーウェイ)。ファーウェイを知り尽くした「生き証人」が日経ビジネスのインタビューに応じた。30年前に新卒で入社してから技術や財務など様々な業務を経験し、現在は取締役会事務局長を務める江西生氏だ。

 ファーウェイの急成長は日経ビジネス9月9日号特集で詳しく触れた通り、同社が独自に作り上げた独自のガバナンスに秘密が隠されている。全社員に「奮闘者」となることを求め、競争力を高め続けるという一点に向けて、様々な仕組みが練り上げられている。江氏にファーウェイのガバナンスの神髄を聞いた。

ファーウェイの江西生・取締役会事務局長は30年前に新卒で入社した(写真:周文娟、以下同)

ファーウェイは100%の株式を社員が持っている。ただ、実際に本当の株を持っているのは工会(労働組合)と創業者である任正非CEO(最高経営責任者)で、従業員に与えられているのは「ファントム・ストック」という仮想的な株式だ。なぜこのような方式を採っているのか。

江西生・取締役会事務局長(以下、江氏):中国の法律は株主として登記できる人数に制限が設けられている。そこで工会という「プラットフォーム」を通じて、この株主の登記を行っている。ファントム・ストックは自分が出資をして買わなければ得ることはできない。取得すれば配当や値上がり益を享受することができるが、当然、会社の業績が悪化したときのリスクも負うことになる。

 また、ファントム・ストックを得れば、会社の最高権力機関である「代表者委員会」選挙の投票権と、自らも候補者になる権利を持つことができる。例えば会社あるいは工会が清算するときに資産整理の配分を受ける権利も持つ。

投票権を持っているのは現役社員だけで、OBは投票できない。これはなぜか。

江氏:現在、持ち株従業員は9万6768人いる(2018年末)。その中で投票権を持つ人数は(現役社員の)8万6514人だ。1株1票の投票権を使って代表者委員会の115人のメンバーを選ぶことができる。代表委員会は会長や監事会メンバーの選任のほか、利益分配比率や会社の資本増減、企業統治ルールの策定など非常に重要な問題の決議、意思決定の権力を持つ。

 代表者委員会の選挙活動には3つの原則がある。まず、候補者が何を言っているのかではなく、過去にどうしたことを成し遂げてきたのか。2つ目に会社の将来の長期的な成長を、指導者としてリードする資格と素質があるか。現在の会社の事業や次の成長トレンドなどについて深い理解、知見が必要となる。3点目はこの候補者にやる気と覚悟と能力があるのか。このように従業員代表者委員会は、とても重要な業務に携わっているので非常に慎重かつ厳格にメンバーを選んでいる。

 その観点で見たとき、退職した従業員はこの会社の現状についてそこまでの理解ができないし、また長期的に会社をリードしていく上で誰が適任かを判断することも難しい。そのため、退職した従業員に投票権を持たせるのは、あまり適切ではないと考え、このような制度とした。退職時に投票権を放棄するということを就業規則で規定しており、従業員も理解している。