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 米国の覇権に挑戦する中国を代表する企業として、米政府から事実上の禁輸措置などを受けている通信大手の華為技術(ファーウェイ)。その本当の脅威は、中国政府との関係以上に、国有企業や海外の大手企業を相手にしながら30年あまりで売上高1000億ドルまで急成長したしたたかさにある。日経ビジネス9月9日号「米政府も恐れるファーウェイ 最強経営の真実」では企業としてのファーウェイの実力に迫った。中国国内では次世代通信規格「5G」実用化の先に向けて着々と動いている。

 ファーウェイは9月3日、中国の四川省成都市で技術関連のフォーラムを開いた。次世代通信規格「5G」の通信網に使う基地局の出荷数が7月からの2カ月間で5万件増え、累計で20万件を超えたと発表した。

 ファーウェイは世界の50超の通信会社と、5G商用化に関する契約を締結している。米政府は安全保障上の問題があると主張してファーウェイへの制裁を強化し、西側諸国にも同社機器を採用しないよう呼びかけているが、同社の勢いは衰えを見せない。フォーラムに登壇した徐文偉(ウィリアム・シュー)取締役兼戦略研究所所長は「当社は多くの困難に直面しているが、安定して業務を行っている」と胸を張った。

 ファーウェイは米制裁によってクアルコムやインテルといった米国企業からの輸入を事実上封じられた。だが、日経ビジネスの取材に応じた郭平取締役副会長兼輪番会長は「米国抜きでも顧客への供給は問題ない」と自信を見せた。

 その理由の一端が同フォーラムの発表内容から見て取れた。ファーウェイが半導体チップを次々と内製化しているという事実だ。半導体開発子会社の海思半導体(ハイシリコン)がスマートフォン、人工知能(AI)、サーバーといった分野でそれぞれ業界最高水準の独自半導体チップをすでにそろえている。

 ファーウェイの5Gに関する技術力は、現時点で世界でも頭一つ抜けたレベルにあるというのは衆目の一致するところ。だが、本当に脅威なのはその最強企業が、競合企業より一歩先に「現場経験」を積み重ねるステージに入っていることだ。

 日本では2020年春からやっと始まる5Gだが、中国では商用サービスがすでにスタートしている。地方都市が競い合うように5G活用を進めており、成都市はそのトップランナーの一つだ。

5Gを使った遠隔医療で地域格差解消を目指す

 成都市の中心部にある成都市第三人民医院。5G商用化に先駆けて、昨年から100km離れた地方の病院と5G経由での遠隔診療の実証実験を開始している。すでに100人以上の診察実績を積み重ねている。遠隔地からでもリアルタイムで高精細な検査映像を送ることができるため、専門医がいない地方の病院からでも、都市の大病院にいる経験豊富な医師の診察が受けられるようになった。同病院の周鴻主任医師は「5Gを使って貧しい地域との医療格差を解消したい」と力を込めた。1000km離れた施設にある医療機器を遠隔操作する実験も進めている。

 「5Gバス」も登場した。バスの車体に取り付けられたカメラで道路や周囲の状況を常時撮影して5G経由で伝送。その映像をAIで分析すれば、いち早く補修が必要な箇所を見つけられるようになる。

成都ジャイアントパンダ繁殖研究基地ではAIで繁殖時期を特定

 四川省はパンダの故郷でもある。受精可能期間が年間数日しかないパンダは、繁殖が難しいことで知られる。成都ジャイアントパンダ繁殖研究基地では、発情期特有の鳴き声をAIで検知して正確に受精可能期間を把握する研究が実施されている。

 ファーウェイは、上記のような取り組みを技術面で支えている。ただでさえ技術面で世界トップレベルに上り詰めた企業が、地の利をフル活用して先行して現場経験を積み重ねている。覇権争いやイデオロギー対立の文脈だけに目を奪われれば、中国のデカップリング(切り離し)論に陥りがちだが、それだけでファーウェイに対抗できると考えるのはもはや現実的ではないだろう。