全3343文字

世界で4番目に外国人を多く受け入れる「移民大国」となった日本。政府も新たな在留資格を設け労働市場の門戸開放に動き始めている。背景にあるのが深刻な人手不足だ。コンビニエンスストアや飲食店など私たちが普段目にするところ以外にも、採用難により外国人材に頼らなくては回らなくなっている現場が増えている。

※この記事は日経ビジネス2019年8月19日号特集「『ブラック国家』ニッポン 外国人材に見放されない条件」の関連記事です。詳しくは特集をお読みください。

 福岡県朝倉市にある「原鶴温泉」。この温泉街で最大級の75の客室を構える旅館「泰泉閣(たいせんかく)」には、9人の外国人正社員が在籍している。ネパール出身のティムシナ・ビマルさん(25)もその1人だ。

福岡県の温泉旅館「泰泉閣」に入社したネパール出身のティムシナ・ビマルさん

 「ホテルの経営などを勉強したかった。都会も苦手だったので」と泰泉閣に入社して1年。現在は宴会場の配膳などを担当し、客とのコミュニケーションにも支障はない。「懐石料理では料理を出すタイミングなど個々の部屋の状況把握が大事で、日本人でも難しい。彼はそれも難なくこなす」とラウンジマネージャーの松尾一生氏は話す。

 泰泉閣ではかつては高卒の新卒社員を5~8人採用していた。ただ定着率は悪く、1年未満で辞めてしまうケースが多かった。「5、6年前から外国人材の労働力に頼らざるを得なくなった」と下野博文・接客支配人が実情を明かす。

 原鶴温泉は大都市や著名な観光地に比べて訪日客が多い地域というわけではない。外国人への”慣れ”がない地方都市の旅館という伝統的な職場で「職場になじめるのか、仕事はこなせるのか」(下野氏)という不安はあった。現場では文化の違いや、日本人従業員が外国人との接触に慣れておらず、うまくコミュニケーションがとれていない時期もあったという。

 「最初は外国人が宴会場の個室対応なんて無理だと思っていた。でも、今は本人の頑張り次第で『結局は本人の資質だ』と思うようになった」と松尾氏。一方、外国人材の多くは3年以上定着しないという苦悩もある。スキルが上がればキャリアアップを目指して転職してしまうのだ。「田舎ということもあるのでしょう。博多や天神の方に移ってしまう人もいる」と松尾氏は苦労を語る。

 だが人気が高いとは言えない業種でさらに人材の少ない地方都市だからこそ、外国人の力は必要不可欠だ。松尾氏はビマルさんにいつかはフロントのリーダー役を任せたいと考えている。ビマルさんの育成を成功モデルに「外国人材がスキルを学べる場」というイメージをアピールすれば、彼らのコミュニティーからさらに人を呼び込めるとみているからだ。

 「『辞められたらまた採用すればいい』では駄目。外国人だって職場環境を見ている。これからは海外の労働者にも選ばれる時代だ」。下野接客支配人はこう語る。