日経ビジネス8月12日号特集「見直せ 学歴分断社会」では、同じ国に暮らしながら大卒者と非大卒者が交わりにくい分断の実情のほか、大卒であっても転落・困窮など苦難に直面するケースをまとめた。大卒型人生モデルはそれだけで決して安泰ではない。教育費をはじめ、都市での生活コストが家計の重荷になり、約5500万円の生涯年収の差が簡単に消えてしまう可能性さえある。

:「ちょっと、こんな金額だなんて聞いてないよ」

:「ずいぶん前に言ったはずよ。聞いてなかったわけ? そもそもあなた、全然、受験に協力的じゃないし」

:「今、その話は関係ないだろ。今言っているのはお金の話で……」

:「だいたいあなたは昔からさ……」

 東京都内に住むA夫妻の7月の食卓での会話を再現すると、こうなる。

 思わずヒートアップしてしまった会話のテーマは、小学6年の長男が通う「夏の塾代について」だ。大手進学塾での夏期講習の費用に加え、秋以降の特別コースに通わせるために必要な金額を合わせると、7月分で20万円弱、8月分で10万円強、9月分で30万強……。3カ月で実に60万円以上かかるという。

 結局、住宅ローン返済分を除き、夫の夏のボーナスをすべて塾代に回すことにした。

「都市部では中学受験をはじめ教育投資が過熱気味になっている」(写真:PIXTA)
「都市部では中学受験をはじめ教育投資が過熱気味になっている」(写真:PIXTA)

 A夫妻は共に地方出身で、大学入学に合わせて上京。故郷には戻らず、首都圏で暮らし続けている。日経ビジネス8月12日号特集「見直せ 学歴分断社会」で言及した「大卒型人生モデル」(大学を卒業した後、主に都市部で職を見つけ、単身世帯あるいは核家族を形成し暮らす人々)に属す。

 子供の受験戦争には「気づいたら巻き込まれていた」。小学6年の長男が通う公立小学校では、7~8割の生徒が中学受験をすると聞き、小4から塾に通わせたという。だが今、夫妻は教育費負担のあまりの重さに将来への不安を抱き始めている。

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