イノベーションの波にも乗り遅れた

 M&Aを通じて規模拡大に突き進む一方で、欧米勢は得意領域に経営資源を集中し、開発効率を上げた。例えば、スイスのノバルティスは2015年にがん領域への事業集中を大胆に進めた。動物薬事業を米イーライ・リリーに、ワクチン事業はGSKに売却する一方、GSKからがん事業を取り込むスキームだ。

 日本勢はイノベーションの波にも乗り遅れた。これが日本勢が欧米勢から引き離された2つ目の要因だ。 

 製薬の世界では、化学合成で作る低分子化合物が医薬品開発の主戦場だった。日本勢もこの分野で力をつけてきたが、糖尿病や高脂血症といった多くの疾患に対する治療薬が出尽くしており、開発余地が残されている領域が小さくなっている。既存の医薬品の安全性や有効性を上回る新薬を生み出すにしても、難易度は高まる一方だ。

 そうした中で出てきたのが、遺伝子組み換え技術を利用して製造するバイオ医薬品や、たんぱく質の設計図である遺伝子を体内に入れて、遺伝子が作るたんぱく質によって治療を目指す遺伝子治療だ。米国を中心にこうした化学合成に頼らない治療法の研究開発が活発になっているのに、日本勢はその波に乗れないでいる。

 3つ目の要因として挙げられるのが、日本の製薬業界を覆う「ぬるま湯」的な環境がある。前出の酒井アナリストは「日本の薬価制度には薬の価格を維持する機能がある。製薬企業にとっては居心地が良い環境だ」と指摘する。

 市場原理が徹底する米国では競合他社から類似薬が出れば、価格を下げざるを得なくなる。だが、国が薬価を決める日本では、新薬が出てきてもすぐに市場に浸透するわけでもない。「その『お薬』、本当に必要ですか? 医療費の無駄を見直せ」でも示したが、安価なジェネリック医薬品(後発薬)を処方したがらない医療機関の存在もある。極端に言えば、欧米から導入した医薬品を売っているだけでもある程度の利益を確保できてしまうのだ。

 もちろん、政府も特許が切れた新薬の薬価を下げたり、ジェネリック医薬品への切り替えを進めたりして医療費の膨張を食い止めようと手を打っている。「ぬるま湯」の環境は大きく変わろうとしている。

 グローバルでも、国内でも、厳しい環境に立たされている日本の製薬企業。シャイアーを買収した武田薬品に次ぐメガファーマは日本から生まれるのか。M&Aなど大胆な戦略を打ち出せるかどうかにかかっている。

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