「分析して次の手が出せればいい」
「考えて実行した計画が失敗しても、分析して次の手を提案できれば、社長は何も言わない」(振吉氏)。鳴かず飛ばずの時期が数年続いても、自動車用芳香剤自体は変わらず育成カテゴリーだった。
小林社長は「PDCA」を高速で回すことを重視する。育成すると決めたカテゴリーやブランドは、商品や販促などあらゆる方向でたくさんの「矢」を放ち、それが想定通りに行かないことも「想定内」で、問題にしない代わりに「結果が良くても悪くても、なぜそうなったかを分析することを求める」(振吉氏)。
振吉氏は自動車用芳香剤の当初の商品群の「敗因」を、「ターゲットは男性・女性」などの軸で分けて商品企画していたことと分析。それを見直してターゲットは「家族」とした。そして当時、すでにヒットしていた部屋用の芳香剤と同じ「パルファムノアール」シリーズとすることで部屋用の愛用者に訴求することを提案し、ヒットにつなげた。

この商品のヒットは、失敗から学び次の手に生かす同社の方針から生まれたと言える。そしてもう一つ鍵になったのが、失敗や成功の経験を共有する仕組みだ。
担当外商品の会議をのぞく
長期的に育成するブランドやカテゴリーでは、育成の過程でどんな挑戦をし、どんな結果に終わったかを社長に会議で報告する。この会議や、技術担当者が出席する月1回の開発会議などは、担当者以外も出席することができ、ほかのブランドやカテゴリーの成功事例、失敗事例を知ることができるようになっている。
「クリップ パルファムノアール」も、振吉氏が他のカテゴリーの会議で聞いた失敗経験を役立てた。部屋用芳香剤で人気のある香り「パルファムノアール」を他のブランドやカテゴリーで採用すること自体は、すでに別の商品で実施していた。その商品は部屋用の芳香剤とは原料が異なっていたが、「少し香りは違うかもしれないが許容範囲だろう」と判断し、発売した。すると顧客から「香りが違います」と苦情が殺到した。
他のカテゴリーで起きたこの事象を会議で聞いて知っていた振吉氏は、クルマ用の開発に当たり「なんとしてでも同じ香りにして下さい」と研究開発部門に要請。「香りに妥協はしなかった」(振吉氏)。ヒットはアイデアだけでなく、失敗事例を横展開する仕組みもあってのことだった。
「クリップ パルファムノアール」が寄与し、小林製薬は17年に自動車用芳香剤市場で5%のシェアを獲得。その後も順調に拡大し、シェアは現在10%まで上昇した。失敗が事業を育ててきた好例と言えるだろう。
有料会員限定記事を月3本まで閲覧できるなど、
有料会員の一部サービスを利用できます。
※こちらのページで日経ビジネス電子版の「有料会員」と「登録会員(無料)」の違いも紹介しています。
※有料登録手続きをしない限り、無料で一部サービスを利用し続けられます。
この記事はシリーズ「日経ビジネス最新号特集から」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。
Powered by リゾーム?