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 世界にまたがった生産活動で価値を付加する「国際生産分業」がトランプ米大統領の保護主義によって揺らいでいる。日経ビジネスの2月3日号特集「さまよう工場」では、米中の対立でサプライチェーンが変わり始めた実態を取り上げた。国際生産分業を研究する経済学者は世界の分断をどう捉えているのか。近著で米中摩擦を「サプライチェーン上の支配領域を巡るグローバルレベルの争奪戦」と位置付けた、日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア経済研究所の猪俣哲史上席主任調査研究員に聞いた。

米中貿易摩擦は、これまでの国際分業の進展に逆行しています。そもそも、どうしてこんな事態に陥ってしまったのでしょうか。

猪俣哲史氏:米中の対立の発端は、米国の労働者と、中国の労働者との間の国境を越えた分配問題だと位置付けられます。

 輸送手段やITの発達により、製品のサプライチェーンは工程ごとに切り分けられ、それぞれの工程を最も効率よく実行できる国や場所に移されるようになりました。その結果として生まれたのが、中国を出荷口とする東アジアの生産システムです。日本や韓国、台湾が高付加価値の部品や材料を生産し、中国の潤沢な労働力によって最終製品を組み上げ、欧米などの先進国へ輸出するという形態です。

 先進国の企業は最適な国際生産分業で生産性を高めようとし、途上国の企業は労働力を武器に分業体制に入り込んで経済発展の機会を得ようとしてきたわけです。特に、中国がWTO(世界貿易機関)に加盟した2001年以降、中国の貿易拡大は過去に類を見ないほどの規模とスピードで展開しました。米トランプ政権はこの国際分業の進展で生まれた米国と中国の労働者間での対立構造に目をつけ、製造業の空洞化や所得格差の拡大の仮想敵国として中国を置いたといえます。

猪俣哲史(いのまた・さとし)
日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア経済研究所上席主任調査研究員。1991年英オックスフォード大大学院経済学部修士課程修了、アジア経済研究所入所。2000~02年にロンドン大学客員研究員。17年より現職。近著に『グローバル・バリューチェーン 新・南北問題へのまなざし』(日本経済新聞出版社)がある。