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 日経ビジネス1月13日号の特集『逆境に芽吹く 世界のビジネスモデル 20の「ひずみ」が生む新潮流』では、世界各地の課題解決型スタートアップに着目。社会、産業、消費者が抱える「ひずみ」をどのように解決しようとしているのか、そのビジネスモデルを詳しくリポートしている。日経ビジネス電子版では雑誌では紹介しきれなかったストーリーを番外編としてお届けする。

 今回は、診療所の“オンライン化”で効率を追求し、ヘルスケア分野のDtoC(ダイレクト・ツー・コンシューマー)まで手掛けようとしているスタートアップ、リンクウェル(東京・港)の取り組みから、ユーザー視点の課題解決が開く新市場の可能性を探る。

リンクウェルの金子和真CEO(写真:稲垣純也、以下同じ)

 東京・田町駅に2018年に開業した駅ビル、ムスブ田町。駅直結で、現在はファミリーマートや三菱自動車などの本社オフィスや食品スーパーのライフなどが入居し、ビジネスパーソンと近隣住民を引き寄せている。この好立地の一角に、18年10月に開業した診療所が、常識を覆すほどの数の患者を診察している。

 広さは一般的な診療所とほぼ同等。だが、患者数は通常の診療所なら1日30~50人、少し大きめの診療所でも同70~80人のところを、この診療所では1日200人程度に達している。開業から1年間の患者数は延べ4万人ほど。この診察能力はどこから来るのか。

 この診療所「クリニックフォア田町」を立ち上げたのは、マッキンゼー・アンド・カンパニーでコンサルタント経験がある内科医の金子和真氏。診療所で自らも患者を診ながら、スタートアップのリンクウェルのCEO(最高経営責任者)として、診療所をデジタル化するシステムなどの仕組みを開発する。クリニックフォアは、リンクウェルで開発したビジネスモデルの実践の場だ。診療所の運営とシステム開発の両方を手掛けるのは、「米アップルと同じように、ハードもソフトも同時に手掛けないと、ユーザー体験を向上させられない」という、ビジネスをする上での金子氏の信念がある。

 1日200人もの患者を診療できる最大の要因は、クリニックフォアが15分刻みに予約を受け付けているからだ。診療所に対して患者が感じる不満の1つに、長時間待たされることが挙げられる。長時間、待合室で待った後の診察は数分で終わり、処方箋をもらうのにまた待たされ、薬局に行って薬をもらうのにも待たされる。「待たされるのが嫌で病気になってもちゃんと治療を受けたくないというビジネスパーソンも少なくない」と金子氏は見る。

 糖尿病の専門医として東京大学医学部付属病院に勤めていたころのこと。糖尿病にかかっていることが40代で発覚していたビジネスパーソンが、平日は忙しく、週末は疲れていて病院に行く気がせずにしっかりと治療しないで放置した結果、合併症が進行してしまったという事例を見てきた。「診療所で待たされる」という課題を解消することが、病気を早期に直し、大学病院など大きな病院に診てもらう回数を減らし、結果的に医療費を削減することにもつながる。金子氏はそう考えている。

 インターネットで事前に予約を受け付けている病院はあるが、時間指定ができるところはまだ多くはない。クリニックフォアは、ウェブから15分刻みで予約を受け付けるほか、基本的な問診にも事前に応えてもらう。ユーザーの不便を可能な限り取り除くために、平日は朝9時半から夜9時まで、土日は朝9時から夜6時まで診療し、薬の処方も可能な限り院内でする。医師は常勤、非常勤合わせて約30人が交代で対応に当たっているという。