7月21日投開票の第25回参院選で、与党の自民、公明両党は改選過半数を上回る71議席を獲得した。ただ、非改選と合わせ、憲法改正に前向きな「改憲勢力」は国会発議に必要な3分の2には届かなかった。安倍晋三首相は9月に内閣改造・党役員人事を実施し、改憲などを見据えた陣を敷く構え。10月には消費税増税も控える中、企業経営者ら経済人は今回の結果についてどう受け止め、どんな政策を期待しているのか。

まず、岡藤会長は今回の参院選の結果をどのように受け止めましたか。

岡藤正広氏(伊藤忠商事会長CEO=最高経営責任者、以下、岡藤氏):まず、総じて言えることだが、これまでの経済、外交、通商といった政策に対する評価が素直に表れた結果だろう。ただ、自民党の議席は改選前の66議席から9議席減って57議席となった。

伊藤忠商事の岡藤正広会長CEO(写真:竹井俊晴)
伊藤忠商事の岡藤正広会長CEO(写真:竹井俊晴)

 自民党が議席を減らす一方で、野党統一候補が議席を増やした。このことから言えることは、野党統一候補に対しては有権者が政策を支持したというより、自民党の批判票が集まった結果だろう。

 1人区では、前回(2013年)の参院選では自民党は29勝2敗だったが、今回は22勝10敗。選挙区の変更はあったとしても、この辺りが気になるところだ。

 もう1つ、投票率の低さが気掛かりだ。史上2番目の低さだという。これだけ日本が大変な状況に直面しているというのに、どんどん政治に対する無関心層が増えている。住民票と違う場所に住んでいる人も多い。選挙のために帰って来なければいけないという状況も影響しているのではないか。こうしたことを考えていかないと、ますます政治に対する無関心な層が増えていくのではないかと心配だ。

先ほど、安倍政権のこれまでの政策に対する評価が素直に表れた結果、とおっしゃいましたが、具体的にはどのような評価でしょうか。

岡藤氏:政治というのは中長期で考えられる人と、そうでない人がいる。そうでない人は、目先、毎日どうやって暮らすのか、という視点で消費税や社会保障、教育といった問題を優先して考えがちだ。どうしても、耳が痛いこと、我慢を強いられることなどに対しては、許容するのが難しい。そういう点を懸念する有権者が、野党支持に回ったのだろう。

 しかし、有権者がまず考えなければならないのは、今、国内総生産(GDP)は約550兆円だが、2倍の約1100兆円の借金を抱えている。一方、税収は59兆円しかない。金利の支払いが毎年約9兆円。金利が安いから9兆円程度で済んでいるが、1%金利が上がると支払いは2兆円ほど増える。金利が上がっていけば年金などの問題はさらに深刻になり、仮に金利が6%くらいまで上がると、税収は吹き飛んでしまう。

 これだけの借金を抱えているのは世界的に見ても最悪の状況だ。金利の支払いが税収の15%もあるというのは、普通の家計で考えても、あり得ない。この辺りについて、もっとわかりやすい説明を国民にしていかなければならないだろう。

日米通商交渉、不利な条件を一方的にのんではいけない

税収を増やすためにも、経済成長を続けなければなりませんが、今後、安倍政権にはどのような政策を期待しますか。

岡藤氏:貿易戦争を繰り広げる米中関係の中で、日本は難しいかじ取りを迫られている。日本は安全保障を米国に頼りながら、我々(伊藤忠商事)も含め経済では中国に非常に大きな可能性を見ている。米中関係の摩擦はすぐには収まりそうになく、今後、もっと難しい状況になる可能性もある。

 中国は米国のGDPをやがて追い抜く勢いだが、米国はそれを阻止したいようだ。そうした状況の中で、日本は今後、どうしていくのか。我々は日本にとって何が大切かを本当によく考えて対応していかなければならない。

 注目しているのは日米貿易交渉だ。トランプ大統領の関心事は、2020年に迫る米国の大統領選挙。トランプ大統領が支持母体である農家に配慮して、日本側に米国抜きの環太平洋経済連携協定(TPP11)よりも有利な条件で米国から農作物を輸入するように求めてくる可能性もある。もし日本側が安易に妥協してしまったら、TPP加盟国からの反発を招きかねない。米中貿易戦争の影響で米国から中国への大豆の輸出がへるなど、米国の農家は大きな打撃を受けている。トランプ大統領がどのような対応をするのか注視している。

 また、トランプ大統領は米国内の自動車産業への対応もしなければならない。その結果、米国が日本車に対する関税を引き上げたり、輸入の数量規制をしたりしたら、大変なことになる。

 トランプ大統領の目的はまず、自分が再選されることだ。我々はかつて、半導体で世界一だったのに、日米半導体協定の中で力をそがれてしまった。今回もそうなってはダメで、守るべきところは守らなければならない。厳しい交渉にはなるだろうが、一方的に不平等な条件をのんではならない。

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