酒や清涼飲料は対象外

 三菱地所と同じように、本業とのシナジーにこだわらない社内ベンチャー企業はキリンホールディングスにも誕生している。2018年7月に設立された100%子会社のリープスイン。同社は食品を製造したいスタートアップや地方企業と、製造設備に空きがある中小企業をマッチングさせたり、食品の企画・開発をコンサルティングしたりする事業を手掛ける。モノを作って売る、というメーカーとは異なるビジネスモデルの創出を目指している。

リープスインは特産品の開発などを支援する。6月にはイベントでお披露目した
リープスインは特産品の開発などを支援する。6月にはイベントでお披露目した

 CEO(最高経営責任者)を務める日置淳平氏は起業した狙いについて、「飲料食品業界の閉鎖的な構造に疑問を感じていた。我々が持つ量産化のノウハウを必要としている人がいると思った」と話す。

 リープスインも事業計画段階では、キリングループで空いている生産設備を生かそうと考えていたという。本業とのシナジーをにらんでのことだ。だが、キリンの工場を使おうにも、最低ロットが大きい上、製造の許可が下りるまでに時間がかかる。

 「本当にうまくいくのか」。そう不安に感じた日置氏は、社外の意見を聞くことで、事業の方向性を見定めた。飲料にこだわらなくても、衛生管理が欠かせない食品ならば、キリンが持つ量産化ノウハウは生かせる。事業を立ち上げる当初から、酒や飲料をリープスインのサービス対象から外したのも、食品業界向けサービスに経営資源を集中するためだ。

 本業とのシナジーを気にせずに新たなビジネスモデルづくりに挑む三菱地所やキリンの社員。大企業のこうした試みは日本の産業を活性化する上でも役立つ。ゼロワンブースターの鈴木規文代表は「大企業には優秀な人材がたくさん埋もれている。彼らに火をつければ、新しいアイデアはたくさん生まれる」と強調する。

 さらに、「コスト意識や生産性に対する意識が変わった」と日置氏が実感するように、社外の人を巻き込みながら1つの会社を運営することで、経営に対する考え方も深まる。鈴木氏は「大企業のオープンイノベーションは、モノを生み出すことだけではなく、スタートアップの『風』を取り込むことで、会社自体を変えることにもなる」と指摘する。

 それは社員だけでなく、経営陣にとっても必要な変化かもしれない。社員を抱え込まず、オープンイノベーションの流れを生かして、社外との接点を増やし、社内の意識改革につなげる。そうしたサイクルを回すことができれば、日本の産業はもっと力強くなれるはずだ。

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