全2021文字

 日経ビジネス2019年7月15日号の特集「もう失敗させない オープンイノベーション」では、大企業がこぞってオープンイノベーションに取り組んでいることを紹介した。社内外の技術や知恵を融合して新製品や新サービスを生み出せれば成功といえるが、大企業にとってはそれだけにとどまらない効用がある。社外で経験を積むことで社員の意識も変わる点だ。三菱地所とキリンホールディングスの例を見てみよう。

 東京・南青山。ブランドショップや美容院などが軒を連ねるエリアに、2019年6月、瞑想(めいそう)をテーマにしたスタジオ「メディーチャ」がオープンした。音や光、香りなど特徴が異なる4種類の空間を巡って五感を刺激。心身をリラックスさせつつ、瞑想することで、メンタルコンディションを整えることができる。運営するのは、三菱地所の100%子会社だ。

「メディーチャ」では音や光、香りを駆使して五感を刺激する

 この子会社の代表を務めるのが、三菱地所新事業創造部の長嶋彩加氏と山脇一恵氏。「やりたいことを自由にやるビュッフェ型のライフスタイルを提案したい」と考える中、米ニューヨークで注目されていた瞑想に着目し、事業計画案を作成、三菱地所の新規事業提案制度で採用された。

 三菱地所の新規事業として取り組むならば、瞑想スタジオは同社が持つ物件の中で開いた方が本業とのシナジーが期待できる。だが、三菱地所が数多く物件を抱えているのは、東京・丸の内エリア。想定する顧客は女性を中心としたビジネスパーソンだが、「仕事」がメインのこのエリアに瞑想スタジオを開いたところで、本当にお客はつくのか。

 長嶋氏と山脇氏は事業計画を固める上で、スタートアップ支援を手掛けるゼロワンブースター(東京・港)やスタートアップ企業などと意見交換を重ねるうちに、「既存のビジネスとどう結びつけるかではなく、顧客のニーズがあるところでビジネスをつくることが重要」(長嶋氏)であることに気づかされたという。

 想定顧客の条件に近い100人にインタビューしたことで、確信する。丸の内のようなオフィス街ではなく、カフェや美容院などが集まる南青山の方が、リラックスしやすい。瞑想スタジオを開くなら、南青山だ──。

 メディーチャが入居したのは、三菱地所の物件ではない。「これまで新規事業をするにも丸の内を中心に展開していた」(山脇氏)という三菱地所。メディーチャは本当の意味で三菱地所という「殻」を破って新たなビジネスを立ち上げる挑戦といえるのかもしれない。