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「温度計について何でも教えてあげる」

 「PMSによる身体や心の不調に悩む人でも記録を続けやすいものを」。開発の方向性は決まった。江尻氏は自身の経験やPMSに悩む女性へのインタビューから「症状が重い人は自己肯定感が低くなりがち。記録を続けられることが自信になる」と考えた。診断の面では毎日決まった時間に基礎体温を測るのが理想だが、負担の少ない測定方法を模索した。

 そこで見つけたのが、パジャマに挟んで使う小型温度計を手掛けるキューオーエルだった。温度計を着けて寝ると、就寝中の衣服内の温度の推移を測定する。体温を直接測定するわけではないが、毎日同じ環境で計測することで体温の長期的な変化を把握できる。「主に妊娠を希望する女性に向けた製品だが、PMS改善のための記録にも使えると考えた」(江尻氏)。

 ただし、スマートフォンに温度を転送するためには温度計に表示されるQRコードを読み取る必要があるなど、記録に手間がかかる問題があった。自社だけでの製品拡充には手が回らない状況だったキューオーエルに対し、江尻氏は共同開発を提案。「構想に共感してくれたキューオーエルが、温度計について何でも教えてあげるとオープンな姿勢だったことが大きかった」(江尻氏)。スマホに無線で温度情報を送る機能や、測定する時間帯を自由に設定できる機能を追加した新機種をモニシア向けに供給してもらう体制を整えた。

 その日の体調に関する利用者の主観を記録するアプリでも、記録を長続きさせることを目指した。治療のために必要な情報について京大の江川助教から助言をもらい、利用者にとっての「体験」のデザインについてはデザイン会社のTakram(東京・渋谷)の協力を得た。

 そうして準備が整ったモニシアだが、コニカミノルタとしての事業化へのOKはなかなか出なかった。「一般の人へのインタビューや展示会などでの反応は良かったが、事業性があると示せなかった」と江尻氏は話す。最終的なテストや量産に移るためには資金が必要だ。「潜在的な顧客がいることを示したい」。こう考えた江尻氏が行き着いたのが、クラウドファンディングでの資金調達だった。コニカミノルタで市場性を探る取り組みとしてクラウドファンディングの活用を認めてもらった。

多くのパートナーの協力を得て製品化にこぎつけたコニカミノルタの江尻綾美氏

 「これでダメなら仕方がない」と覚悟して19年1月に始めたクラウドファンディングでは、目標金額500万円のところ665万円が集まった。出資者の期待を裏切らない効果を実現できれば、PMSに悩む多くの女性を助ける道が開ける。

 コニカミノルタでは数人しかかかわらなかった小さな新規事業のモニシア。その実現に関与した社内外の人たちに共通するのは「PMSに悩む女性の助けになりたい」という強い思いだ。

 日経ビジネス2019年7月15日号の特集「もう失敗させない オープンイノベーション」で指摘したように、明確なゴール設定は、立場が異なる人たちがかかわるオープンイノベーションを成功させる条件の1つだ。自らの経験を基に仲間と目標に向かって進み続けた江尻氏は、その成功のポイントをしっかり押さえていたからこそ、モニシアを世に送り出すことができたのだ。