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 日経ビジネス7月8日号の特集「再考 持たざる経営」では、店舗や人、物流などで企業が何を「持つか」「持たないか」の戦略が業種や企業によって分かれてきたことをレポートした。

 製造業にとって研究開発は企業の競争力を左右する重要な存在だ。「中央研究所」といえば、研究開発を支える組織として欠かせない組織のはず。その重要な組織をあっさり解体したのがポンプや半導体関連装置、環境関連のプラントを手掛ける荏原製作所だった。

 「とにかく研究と製品が乖離していた」。今から10年前、研究所を廃した当時の担当役員だった辻村学フェローは当時の総合研究所の状況についてこう話す。当時の最大の仕事といえば、「一年間の研究『成果』を記す年報を書くことだった」と辻村氏は振り返る。事業部の現実とは関係ない研究でも年報に「成果」を書けば、研究員を評価する対象となっていた。それはポンプやプラントなどを手掛ける事業部へ還元するビジネス上の成果には程遠かった。

 そう判断した経営陣は研究所にいた94人を風水力や精密、環境といった各事業部に「散らせた」(辻村氏)。総合研究所を解体し、研究者を各事業部で必要と考える技術の開発に従事させたのだ。

 もっとも将来の製品のベースとなる基礎技術の研究を怠るわけにはいかない。そこで頼ったのが大学の研究室だった。ともすれば100万円単位で予算を欲しがる社内の研究者に対し、大学の研究室は30万~50万円の研究費でも相談に乗ってくれた。基礎研究には大学の知恵を生かし、最終製品に落とし込むのは各事業部の研究者という体制を作った。

 研究員が事業部に散ったことによって、別の効果も出てきた。「総合研から事業部に移ったことで“異文化交流”が生まれた」と辻村氏は話す。研究所という組織に閉じこもっていた研究員が営業など事業部の声に触れて「研究すべきこと」を考えることが「化学変化」をもたらしたのだ。

荏原は外部との3D図面上でのやり取りにVRを使う

 並行して進めたのが、ICT(情報通信技術)を活用し外部とつながるインフラを整備することだ。記者が荏原の藤沢事業所(神奈川県藤沢市)を訪れると、ゴーグルを付けた研究員が手を動かし、話をしていた。VR(仮想現実)を活用して外部の研究者と同じ図面を見ながらやり取りしていたのだ。これにより大学の研究者などときめ細かくやり取りできるようになった。