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「開示する情報を指定してほしい」

 改めて楽天に全個人情報の開示を求めると、今度は「どの個人情報を開示すべきか特定するための情報をいただけない場合、開示のための調査ができかねてしまいます」と返信してきた。「全個人情報」ではなく特定の情報の開示にとどめるよう求めてきたのだ。

 前回の記事でも示した通り、ユーザーはプラットフォーマーがどんな情報を保有しているのか、全容が分からない。無意識のうちに取得されている情報があるかもしれない。情報開示請求をするのは、データの全容を把握するためだ。その目的を達成するには全情報を請求するしかないのではないだろうか。

 そこで、自分が知らないうちにデータを楽天が保有していないか調べる方法はないのか、再度問い合わせた。その答えはこうだ。「例えば、楽天には教えていないはずの住所に楽天からダイレクトメールが届いた時、担当部署に調査を依頼させていただくことが可能です」。裏を返せば、何か具体的に問題が発生した後でないと、楽天は協力してくれないことになる。

 ここで、開示請求が取材目的であることを明かし、「なぜこのような対応になるのか」と楽天の広報担当者に正式に取材を申し込んだ。そこで示されたのが、個人情報保護法のガイドラインに示された一文だった。

 ガイドラインには、全個人情報の開示を請求された際の対応として「本人に開示を請求する範囲を特定してもらい、本人が特定した範囲で開示をすれば足りる」としていたのだ。

中身のない開示

 LINEの対応も楽天と同様の経緯をたどった。

 カスタマーサポートへの問い合わせから10日後に返ってきたメールで「開示を請求される情報について具体的にお知らせください」と求めてきた。「既に全情報だと指定している」と返信すると、楽天と同じガイドラインの一文を示した上で、開示のために「対象サービス(LINEストアなど)及び具体的な項目(スタンプ購入履歴など)の指定」が必要だとしてきた。

 そこで、記者は「LINEが提供しているサービスの一覧リストと、そのサービスが取得している情報の項目の一覧リスト」をまず開示するよう求めた。そのリストを元に、開示を求める内容を検討するためだ。だが、広報担当者から「そのような法的義務はない」と返事が返ってきた。

 やむなく一旦、楽天とLINEが公開しているプライバシーポリシーなどを参考にしながら、対象のデータ項目を限定した形で両社に開示を求めた。ネット上の情報管理ページなどで確認可能なものを除いて開示されたデータは、楽天でA4用紙22枚分、LINEで同47枚分だった。

左は楽天から簡易書留で送られてきたデータ。右のLINEのデータは、パスワードロックが施されたファイルの形式でメールに添付されてきた。

 楽天のデータの中身は、楽天のウェブページへのアクセス履歴や、「楽天トラベル」でのホテルの予約履歴。LINEは、SNS上で使う「スタンプ」の種類別の利用回数や、「LINEニュース」での記事の閲覧履歴などだ。前回のフェイスブックの記事で詳しく検証した、ターゲティング広告(データから推測した消費者の趣味嗜好に合わせて打つ広告)に関連する情報はどこにもなかった。

 ここまでが、楽天とLINEに対する前半の調査の結果だ。

楽天とLINEの対応は「適切ではない」

 開示対象を限定するよう要求してくる楽天とLINEの対応は、果たして本当に法の趣旨に沿ったものだろうか。疑問をぶつけるために7月、個人情報保護委員会に取材を申し込んだ。「ガイドラインの趣旨が両社の解釈通りであれば、委員会は本来の職務に反し、情報の保護よりも情報の流通を重んじていることになるのではないか」と。

 委員会は8月になって文書で回答。「(ガイドラインの記述は)円滑に開示手続きができるよう設けられた規定で、本人にデータの範囲の限定を求めることは適切ではない」という見解を示した。楽天とLINEの解釈が誤っていることを認めたのだ。

 しかし、委員会としてどのように問題に対処していくのかについての記載はなかった。インタビュー取材を求めた結果、9月末になって委員会の其田真理事務局長が応じることになった。