フェイスブックでデータを開示する方法

 18年以降、フェイスブックでプライバシーを巡る様々な不祥事が発覚してきたことを考えれば意外に思えるかもしれないが、同社の情報開示体制は、調査対象の7社の中ではまだ良い方だった。同社はネット上で保有している個人データをすぐにダウンロードできる仕組みを展開している。下の写真の通り、フェイスブックの各ページの右上の三角マークから設定ページに飛び、「あなたのFacebook情報」→「個人データをダウンロード」とクリックすればデータのダウンロードページに行ける。

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 記者がダウンロードした自身のデータは39.6メガバイト(2018年4月27日時点)。その内容はほぼテキストデータであることを考慮するとなかなかの分量だ。記者はそもそもフェイスブックに普段投稿する習慣がなく、データ容量の大きい写真や動画もほぼ保存されていない。大半の読者は記者よりはるかに大量のデータをフェイスブックに保有されているのではないだろうか。

 このデータはフェイスブックが保有している全てのデータでないことに注意が必要だ。同社の広報担当者は「ダウンロードサービスを2010年に開始して以降、利用者からの問い合わせが多いデータから順次対応している。日々取得しているデータのほぼ全てを開示しているが、技術的に開示が難しいデータもある」としている。開示をしていないデータの詳細について同社は明らかにしていない。

 ダウンロードしたデータの中身を詳しく見てみると、記者が自分で登録したプロフィルや過去の投稿と「いいね!」の内容、メッセージアプリ上のやり取りはもちろん、記者の顔認識に利用しているデータ、携帯から同期された知人らの電話番号、フェイスブックのIDを利用している他社のサービスなど多岐にわたる。検索ワードの履歴は、記者がフェイスブックを利用し始めた2012年からのデータが残っていた。

悪影響の方が大きい広告

 今回開示されたデータの中で、特に疑問を抱いたのが「あなたの情報を含む連絡先リストをアップロードした広告主」という項目だ。

 項目名だけでは何のことやら分からないが、フェイスブック側に問い合わせると、記者を対象にしてフェイスブックにターゲティング広告(データから推測した消費者の趣味嗜好に合わせて打つ広告)を出した企業だと判明した。このリスト内の企業は、自社の保有するデータとフェイスブックの保有するデータを結合し、ターゲティング広告を打っている。フェイスブックの広告ビジネスの実態を追うには重要なデータだ。

 リストに並んでいたのは40の広告主。そのうち13がパチンコ店やパチンコ情報誌だった。企業単位で数えると6社。記者は人生で一度もパチンコをしたことがない。なぜ、こんな広告を打ったのかを6社に問い合わせてみた。

 回答をしたのは3社。うち2社は「広告を配信した事実を確認できない。フェイスブックに問い合わせてほしい」という内容だった。結局、意味のある回答を得られたのは1社だけだった。

 この会社はJR新宿駅東南口の直近にある店舗から半径8kmもの広範囲で、位置情報を取得した消費者に広告を打っていた。東京、品川、上野、渋谷、池袋など都内の主要ターミナル駅は全てこの圏内に入ってしまう。ここまで広範囲に網をかける広告に意味はあるのだろうか。

 その後、様々なネット広告関係者と議論してみたが、ターゲティングの設定を絞りきれない問題は多くの企業にあるそうだ。

 「ターゲティングの対象を狭めると、その分だけ広告単価が上がってしまう。予算の制約から、ターゲットを広く取る『数打ちゃ当たる』のネット広告を打っている事例は、大手企業にも多い。全く興味のない人の目に留まることによる悪影響の方が大きいのではないかと疑いたくなるケースもある」(大手広告代理店関係者)という。

 逆に、広告代理店の都合でターゲティングの設定が大きくなってしまうケースもあるという。ターゲティングを絞り込める効率の良い広告枠は少ないため、広告代理店は枠の調達が難しい。そのため、より幅広い顧客層を対象にした広告枠での契約を広告主側に求めるのだ。

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