弱みを補完しあい、強みを伸ばす――。企業のM&Aではそんな効果が期待されるが、実際どうなのか。日経ビジネス6月24日号特集「新規事業という病」では、M&Aにシナジーがあるのか検証した。食品・飲料業界でM&Aの渦中にいたのがカルピスだ。

2016年1月、アサヒグループホールディングス傘下のアサヒ飲料とカルピスは経営統合した。サプライチェーン全体を共通化している
2016年1月、アサヒグループホールディングス傘下のアサヒ飲料とカルピスは経営統合した。サプライチェーン全体を共通化している

 M&Aは食品・飲料業界でも盛んだ。縮小する国内市場での生き残りをかけ、規模のメリットを生かそうと再編が進む。各社は、買収と時に売却を繰り返しながら最適な事業ポートフォリオを探っている。そんな中、M&Aによって親会社が変わる経験をしたのがカルピスだ。

 カルピスは1990年に味の素からの出資を受け、2007年には完全子会社になった。人事異動を実施するなど一定の融合は図っていたが、食品と飲料で製品の特質が異なる以上、サプライチェーンの共通化などは難しかったようだ。完全子会社化からわずか5年後の2012年、味の素はアサヒグループホールディングス(GHD)にカルピスを売却した。

ブランド憲法を全社で共有

 「カルピスには、ブランド価値を高め続けてもらいたい」

 カルピス出身で、現在はアサヒ飲料の常務執行役員マーケティング本部長を務める大越洋二氏は、アサヒ傘下入りが決まったとき、アサヒGHDの泉谷直木社長(当時、現会長)に言われた言葉を鮮明に覚えているという。アサヒ傘下に入った後も、「今まで通りでいい」というメッセージだと感じた。

 カルピスとアサヒは同じ飲料メーカーといえども、組織風土に違いがあった。カルピスは乳酸菌飲料という特定の分野を深堀ってきたが、アサヒ傘下のアサヒ飲料は総合飲料メーカーとして常に他社とシェアを争ってきたからだ。営業部門などは当初別々のままにして、なじませる期間を設けた。

 カルピスとアサヒにとって転機となったのが、2015年だ。アサヒ飲料の経営会議のメンバーが、同社とカルピスの経営統合を見据えて、2社で共通化できる強みは何か、議論を重ねた。その結果、アサヒ飲料は全社方針として、「ブランド価値の向上」を掲げる。各ブランドの守るべき価値を定めた“憲法”を作り、部門横断組織のブランド管理委員会が定期的に営業社員などに対して勉強会を開いた。アサヒ出身であろうと、カルピスの商品への理解を深めてもらい、逆にカルピス出身者もアサヒ商品を理解することが求められた。16年1月、カルピスとアサヒ飲料は経営統合する。今では、生産から物流、販売体制まで共通化している。さらに、アサヒ傘下の別会社では、乳酸菌技術を生かした健康食品も開発するなど、一定のシナジー効果が出ているようだ。

 「一緒になるときに大事なのは互いを認め合う度量」と大越氏は話す。アサヒ飲料の“ブランド憲法”も、カルピスのブランド管理基準書を生かす形でつくられた。小さなことに見えるが、買われた側を尊重できるかが成否を分ける。少子高齢化で国内市場が先細る中、業界の再編は今後ますます進んでいく可能性がある。そのとき上手く統合できるかは企業の競争力をも左右する。