同族企業(ファミリービジネス)には、「内向き」「閉鎖的」といったイメージがつきまとう。しかし、創業から長い年月を経てもなお成長を続けるファミリービジネスには、それとは正反対の姿勢で経営に臨む企業が目立つ。日経ビジネス6月10日号の特集「知られざる実像 同族経営」で紹介したサントリーとロート製薬という2つの有力同族企業の経営は、市場環境や自社の戦略に応じて、外部の人材を積極的に登用する柔軟性が共通している。
2001年から14年まで社長を務めたサントリーホールディングス(HD)の佐治信忠会長は自らが社長を降りるのに際し、外部の人材を探していた。ウイスキー「ジムビーム」などを手掛ける米蒸留酒大手のビーム(現ビームサントリー)を1兆6000億円もの巨費を投じて買収したが、海外の大手企業をコントロールしたような実績のある人材がグループ内に見当たらない。
ビームはサントリーよりも歴史が長いファミリー企業だ。独自の文化を持ち、プライドも高い。グループの一員として機能してもらうには困難も伴うとみていた。
佐治氏が目を付けたのがローソンで社長、会長を務めた新浪剛史氏。ローソンの経営陣や主要取引先が集まる会合で見かけ、個人的なパイプをつくろうと、招請する数年前から何度も直接面談したという。若く外国語に堪能というだけでなく、胆力を備えていると佐治氏は見た。新浪氏は5代目として創業家以外では初めてとなるトップに就いた。就任した14年10月はビームを子会社にした5か月後だった。
新浪氏の就任当初、ビーム側の経営陣や社員にはサントリーが統制することを拒む雰囲気が満ちていたという。新浪氏は米国のビームの製造拠点に何度も足を運び、サントリーのモノづくりに対する姿勢や、互いの長所を生かしながら新しい成長軌道を目指すビジョンについて語って回った。

佐治氏とは毎週、2人で話し合う場を設けた。新浪氏は「時には何時間にも及び、後の予定をすべてキャンセルする日もあった。ビームの統合のやり方についても、ファミリービジネスの創業家出身者だからこそ分かる視点で、多くの示唆をもらった」と振り返る。
ビームサントリーは今年3月、日米で共同開発した高級ウイスキー「LEGENT(リージェント)」を発売した。米市場でも反響があり、「供給が追い付かない売れ行き」(新浪社長)という。ビーム買収以来の悲願だった共同開発商品を世に送り出し、契約上だけでない実質的な統合を完了したと新浪氏は考えている。
新浪氏は就任から間もなく5年を迎える。後継は佐治会長の従甥(いとこおい)に当たる鳥井信宏副社長というのが社内の暗黙の了解だ。新浪氏は創業家への「大政奉還」までには「まだまだやることがある」と話す一方、「次のトップが決まっていることで、社内がまとまりやすくなる」と言う。
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