我々は顧客に対して有利に立つために鉄道事業を統合しようとしたわけではありません。より多くの資金を得て、もっとイノベーションを起こし、技術力を高めて、顧客にとってより便利な交通手段を提供するために統合を試みました。座席当たりの単価を下げられれば、乗客が増えるかもしれません。より多くのクルマを走らせるより、電車を利用してもらった方がCO2(二酸化炭素)排出量を減らせます。

切り離すつもりだった鉄道事業は、今後どのように経営していきますか。

ケーザー:次の計画ですか? 私たちの鉄道事業は軌道に乗っているので、このまま進み続けます。統合はとても大事な戦略だったが、破談は決定的な打撃ではありません。今後も長期視点の中で検討していきます。

テック企業にはない信頼関係がある

長期視点での事業構造改革の成果として、インターネットでつながるIoTで工場の生産効率を高めるデジタルファクトリー部門の18年度の営業利益率は、20%と全体を牽引しています。

ケーザー:早くからE (電動化)、A(自動化)、 D(デジタル化)と呼ぶ部門を戦略的に強化し、多くのソフトウエア会社を買収してきました。ソフトウエアの開発力が向上し、顧客にも浸透してきたことから、マインドスフィアというIoTプラットフォームは、世界最大規模になっています。

利益率が高い分野には、資金力のある企業が殺到しています。最近はGAFA(グーグル、アマゾン・ドット・コム、フェイスブック、アップル)と総称される米テック企業が、デジタルファクトリー部門に進出してきていますが、どのように迎え撃ちますか。

ケーザー:確かにたくさんの資本を持つ企業の追い上げを受けています。そうした企業には敬意を示していますが、我々には差別化できる方法がいくつもあります。1つ目は、我々がハードウエアを持ち、工場でハードがどのように使われているかを知っている点です。多くの人々はこれからの社会はソフトウエアのみの時代だと思っていますが、それは違います。社会インフラや工場には常にハードウエアがあるのです。

 我々はそのハードウエアをデジタル化したものを仮想世界に存在させています。その最適化されたデジタル情報を、現実社会のハードウエアにフィードバックします。ここがポイントなのですが、ハードウエアの構造を知らないと、デジタルでの改善データを現実社会に戻す術がありません。ここはソフト会社にはなかなか分からない点です。

 2つ目は、産業プロセスが消費者のプロセスほど柔軟に変えられないという点です。交流サイト(SNS)ではソフト開発でコミュニケーションの手段を一気に変えられますが、産業プロセスはそれぞれバラバラで、1つの開発を全てに適用することはできません。

 3つ目は信頼関係です。例えば、あるテック企業は自分たちが言っていることに責任を持っているようには見えません。若い人はそうした企業にデータを預けるかもしれませんが、プロ同士で仕事をする際には、そうした企業に会社の資産を預けることはしないでしょう。

 一般的には知られていませんが、大きな交差点の周辺には信号をコントロールする箱が置かれています。私たちがこれを操作して、信号を赤にできます。これは許容されるかもしれませんが、これを誰かが全て青にしたことを想像して下さい。恐ろしいことが起きます。だからこそ、信頼が大事なのです。この信頼こそが、シーメンスをはじめとした企業がブランドの中に持っているもので、我々はこのブランドをとても大事にしています。

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