日経ビジネス5月27日号の特集「欧州リストラの極意 復活した巨人たち」では、歴史ある欧州の名門企業が、大胆な事業の入れ替えによって復活を果たした実例を紹介した。
その中でも特に猛スピードで変革を進めているのが独シーメンスだ。工場のデジタル化に注力する一方、中核事業だったエネルギー事業の切り離しを断行するなど、15年間で全事業の5割を入れ替えた。事業構造改革の要諦を探るべく、同社のジョー・ケーザーCEO(最高経営責任者)に話を聞いた(インタビューはガス・電力部門の分離上場を発表した5月7日より前に実施した)。
2013年のCEO就任後に中期経営計画「ビジョン2020」を作成、発表しました。その戦略に基づき、照明事業に続き、利益率の高かったヘルスケア事業を分離、上場させるなどの事業構造改革を進めてきました。2020年までまだ期間があるにもかかわらず18年、その先の中期計画を出したのはなぜですか。
シーメンスのジョー・ケーザーCEO(以下、ケーザー):18年までにビジョン2020の数値目標のほとんどを達成しようとしていました。そのため18年に、経営陣が席を並べて今後の課題を話し合いました。このまま2020年まで安穏としていればいいのか、それとも次世代に向けてどうあるべきかを検討していく必要があるのか。我々は後者を選ぶことにしました。18年のうちにシーメンスが今後どのような価値を創造していくかを考えることにしました。
今回、我々は中期経営計画に新たな年代を入れず、「ビジョン2020プラス」としました。このプラスというのは、シーメンスの次世代を意味します。次世代に向けた課題はたくさんあります。第4次産業革命を進めるためには、より多くのソフトウエアの力が必要になります。一方で化石燃料による発電が、再生可能エネルギーのように成長しないことは分かっています。
戦略を実現するために、経営体制も変更しました。デジタルインダストリーズなど3つの社内カンパニーと、再エネを手がけるシーメンスガメサなど3つの戦略会社に分けました。カンパニー制を導入したのは、経営の意思決定を速くするためです。本社が多数の事業を抱えるコングロマリット型経営にはもはや将来性は乏しいと考えています。専門的な会社の方が環境変化への適応力が高く、コングロマリットの傘下ではそのスピードについていけないからです。風力発電産業は成長性やサステナブルの観点から非常に魅力的です。しかし、風力発電事業をガメサと統合させたのは始まりにすぎません。今後はさらに、(エネルギー事業を)統合する必要があります。

シーメンスCEO
1957年6月生まれ。80年にシーメンス入社。半導体事業や情報通信事業を経て、2004年にCSO(最高戦略責任者)、06年にCFO(最高財務責任者)。13年から現職(写真:永川智子)
欧州委員会の決定は、正直残念だ
構造改革の柱でもあった鉄道事業については計画が狂いました。シーメンス本体から切り離して、仏アルストムと経営統合することで合意していましたが、2月に欧州委員会による独禁法違反との判断を受け、統合が白紙になりました。どのように受け止めていますか。
ケーザー:どう言ったらいいでしょうか。私たちは欧州委員会の決定を尊重しますが、正直言って残念です。鉄道事業はどんどん市場がグローバル化していますが、欧州委員会はその観点からは見ていませんでした。欧州委員会は中国市場は関係ないし、中国企業の動きは欧州市場に関係ないと言いました。
企業数が少なくなれば、顧客に大きな圧力、つまり高い値段を押し付けることになるとの批判があります。これはロジカルに聞こえますが、確実に間違っています。そもそも我々の顧客は巨大企業です。ドイツ鉄道やフランス国鉄のような鉄道会社は、選択肢があります。我々が10%の値上げを要求すれば、彼らは我々に「出ていけ」と言うでしょう。彼らは決して「20%の値上げではなくてよかった」とは言いません。
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