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日経ビジネス2019年5月27日号の特集「欧州リストラの極意 復活した巨人たち」では、歴史ある欧州の名門企業が、大胆な事業の入れ替えによって復活を果たした実例を紹介した。日本の経営者は世界の企業の事業ポートフォリオ入れ替えや、ガバナンスの違いについてどのような見方をしているのか。米国とフランスの子会社経営を経験し、今も世界の経営システムを研究している東レの日覺昭廣社長に話を聞いた。日覺社長の問題意識は、ポートフォリオ経営からその前提となるガバナンスのあり方に広がっていった。

欧州の歴史のある企業は事業ポートフォリオを大胆に入れ替え、業績を回復させています。欧州企業のこうした動きをどのように分析していますか。

日覺昭廣・東レ社長(以下、日覺):一般的なポートフォリオマネジメントとは、市場成長率と相対的な市場占有率を用いて事業や製品を分類し、事業構成を分析して経営資源の分配を最適化する手法です。

 欧州企業では、環境問題に対する意識も高く、水平分業的な産業構造の中でオープンイノベーションを創出するための産学官連携による研究開発が盛んです。M&A(合併・買収)によるポートフォリオの入れ替え、見直しも盛んに行われていますが、それは自社の強い領域を確保するための戦略であり、業界内で圧倒的な競争優位を確保することを目的としています。

 その動きが進んでいる背景には、コーポレートガバナンス改革が進み株主からの圧力が増大したことで、低採算事業の継続を許容しないという意識の浸透があり、それによってポートフォリオの入れ替えがしやすくなっているという見方もあります。

 これは、日本企業が遅れている点であるといわれ、日本に欧米型のコーポレートガバナンス・コード(企業統治方針)を導入する理由だとされていますが、将来的な社会のあるべき姿の実現のため、自社の強みのある成長領域に経営資源を積極的に投資し必ず勝つという当社の考え方は、基本的には欧州企業の戦略と変わらないと考えています。

 ただ、ポートフォリオの入れ替えは目的ではなく、結果であるべきだと考えています。社会動向、市場のニーズ、自社の強み弱みを徹底分析して、得意分野で事業拡大と社会貢献を実現する経営、それが東レの実践している経営であり、ポートフォリオは、その結果です。

東レの日覚昭広社長は、日米欧の経営モデルを研究している(写真:竹井俊晴)

成長領域に経営資源を集中投下するという意味では、欧州企業と東レの戦略には共通点があるということですね。ただ東レは欧州企業ほど大規模なM&Aを実行していません。どのような考えをもとに、戦略が異なるのでしょうか。

日覺:東レは基礎素材メーカーとしていろいろな分野、用途に革新的な素材を提供することで、社会的課題の解決に貢献することを経営の基本的な考えとしています。

 具体的なポートフォリオとしては、「有機合成化学」「高分子化学」「バイオテクノロジー」そして「ナノテクノロジー」というコア技術を駆使して、繊維、樹脂・ケミカル、フィルム、炭素繊維複合材料、電子情報材料、医薬・医療、水処理・環境というように、多様な分野で事業を展開しています。