2019年3月期の決算が出そろった。08年9月に発生したリーマンショックの影響を通年で受けたのが09年度の決算。そこからちょうど10年という節目を迎えたことになる。
株式市場は、この10年間で世界の大手企業にどのような評価を下したのか。今年5月5日時点の時価総額と、10年前の09年5月5日の時価総額を調査会社リフィニティブの集計データで比較してみた。
上位100銘柄で存在感を増しているのが、米ネット企業と中国勢だ。米アップルや米アマゾン・ドット・コムなどテック企業が上位にずらりと並ぶ。中国勢は10年前には10社だったのが、今年は14社まで増えている。
一方、急速に存在感を失いつつあるのが日本勢だ。10年前にはNTTドコモやホンダなど5社がランクインしていたが、足元では2社しかない。日本企業の存在感がピークに近かった1989年には世界上位10社のうち7社が日本企業だったことから考えると、退潮はさらに鮮明だ。日本企業のトップはトヨタ自動車だが、もう1社、日本の退潮に抗うかのようにトップ100にランクインしたのがソフトバンクグループだ。

この長期的な日本勢の存在感の低下と、ソフトバンクグループの成長とを分けたポイントは何か。それは、事業構造改革の徹底だ。同社の孫正義会長兼社長が以前から繰り返し主張していたことがある。
「戦う領域」を常に意識してきた孫会長
「日本企業の経営者は、従来の事業に固執する。最大の問題点はドメインの見直しができないところだ」
ドメインは事業領域と訳されることがあるが、孫会長は「戦う領域」と言い換えていた。これまでの遍歴を見れば、孫会長が常に「戦う領域」を考えてきたことは明らかだ。81年の創業時はパソコン用パッケージソフトの流通などを手がけていたが、出版、インターネット、通信、人工知能(AI)と戦う領域を次々と変えてきた。
「膨大な有利子負債を抱えて財務は大丈夫なのか」などと同社には様々な課題が指摘されているが、勝てる領域に経営資源を集中投下し、成長してきたことは間違いない。株式市場もこうした事業構造の転換と成長を評価してきた。
もちろん、孫会長が一代で築いたソフトバンクグループのような会社と従来の日本の大企業とを同じように語るのは難しいという声はあるだろう。しかし、歴史ある企業が続々と大がかりな事業構造改革を断行してきた地域がある。それは欧州だ。米テック企業や成長著しい中国企業ほどの爆発的な伸びではないものの、この10年で着実に利益水準を高め、株価を上昇させている。
日経ビジネス5月27日号の特集「欧州リストラの極意 復活した巨人たち」では、歴史ある欧州の名門企業が、大胆な事業の入れ替えによって復活を果たした実例を紹介した。
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