前回の記事では、なぜシーンクリエイト法が、イノベーションのためのアイデアを生み出しやすいのか。そして、ブレーンストーミングの方法について聞いた。

 では、実際に生まれたアイデアを商品開発につなげていくにはどうしたらいいのか。

(聞き手は斉藤真紀子=フリーランスライター)

前回のインタビューで、新しい市場で画期的なアイデアを提案した場合に、「わが社の技術ではできない」と、社内で反対されやすい点を指摘されていました。技術の壁を克服するにはどうすればいいでしょうか。

光産業創成大学院大学特任教授の宇佐美健一氏
光産業創成大学院大学特任教授の宇佐美健一氏

宇佐美:シーンクリエイト法は、従来のように「自社の技術力」を起点にして商品を考え、開発するのではなく、「世の中にいかに価値のある生活シーンを生み出すか」という観点でアイデアを提案します。そのため、自社の技術、自社の事業領域とは異なる分野の力が必要となることがよくあります。

 たとえば、「映画館で映画を鑑賞する」というシーンを考えたとしましょう。

 自社は映画ソフトを制作提供する会社だとします。映画本体に加えて、映画館、ポップコーン、炭酸飲料といったさまざまな小道具、つまり別の商品が入り込むことで、映画をより楽しめるので、映画館に行きたくなる人が増える。つまり、映画を鑑賞するシーンの価値を高めることができます。

 それぞれの商品は、映画を楽しむという価値あるシーンの一部を構成することになります。映画を楽しむシーンの一要素であるポップコーンを自社で提供することができない場合、ポップコーンを提供できる企業を探すことになります。

 つまり、価値あるシーンを共創する企業を見つけるというのが、一つの解決策になります。同じ「映画を鑑賞する」という時間の中で価値あるシーンを共創し、そこで消費される商品に関わる企業は「パートナー」になり得るのです。

価値シーンのどの部分を担当するかを認識

 どう探せばいいのかなど、始めはハードルが高いと感じるかもしれません。しかし、「誰に向けて、どんな価値のあるシーンを作るのか」という点がはっきりし、自分たちの商品がその価値シーンのどの部分を担当するかを認識していれば、どの企業と組むのかを探ることは、難しいことではありません。

 自分たちの商品が価値シーンのどの部分を担当するのかを考えて、消費する人々が、実際にその商品を「価値あるもの」と認識するところまでを商品づくりとします。すると、そこに関わる企業の投資額、必要な人、組織の動き方など、どこまでコミットするべきかが、明確になりやすいのです。

土地勘のない市場で、これまでにない商品を開発しようとすれば、「本当に売れるのか」という慎重論に阻まれる可能性もありそうです。その場合、どのように上司を説得すればよいでしょうか。

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