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 市場の成熟や後継者不足などから企業の再編が進んでいる。日経ビジネス5月13日号「売られた社員 20の運命 シャープ、東芝、タカタにいた人の今」では、M&A(合併・買収)で売られた会社の社員にどんな境遇の変化があったかを追った。

 直近の数年間でも大きな話題となったのが、米投資会社ベインキャピタルによる広告代理店アサツーディ・ケイ(ADK)の買収劇。上場廃止して収益性の向上に取り組むADKの現場では、働き方の変化も徐々に表れてきたようだ。

世界最大手の“支配”脱する

 ADKがベインキャピタルの傘下に入る方針を発表したのは2017年10月2日。折しも当日は18年卒の新入社員の内定式。業界では国内3位の規模を持つ人気企業でのキャリアに胸を膨らませる学生たちには衝撃の知らせだった。

 同じ頃、ADKの社内では、買収の報道が会社の発表より早くメールで出回っていた。それを追うように経営陣から社員に送られたメールには「記者に質問されても何も答えないように」と記されていたという。

 買収スキームは、ベインキャピタルがADKにTOB(株式公開買い付け)を実施し、総額およそ1300億円で同社の株のうち約9割を取得するというもの。新生アサツーディ・ケイは翌年3月に上場を廃止し、20年前後の再上場を目指す。

 こうした買収劇の背景には、世界最大手の広告代理店である英WPPとADKとの関係がある。1998年に資本・業務提携契約を締結して以降、WPPはADKの株式の約3割を持つ筆頭株主になっていた。しかし、提携の効果が十分に現れないまま、ADKはWPPに高額の配当を要求されるようになる。他の企業との提携も制限された状態で20年余りが過ぎ、その間にM&Aを繰り返して成長した電通や博報堂には、業績で大きな差をつけられていた。17年度の営業総利益は電通の8776億円、博報堂の2723億円に対し、アサツーディ・ケイは542億円に留まっている。

 そんなWPPの“支配”を逃れ、ベイン傘下で成長を目指す同社。「専門性の強化」と「生産性の向上」を打ち出し、電通と博報堂への再挑戦を図る考えだ。今年1月には持株会社制に移行し、もともとは一つだった事業会社を3社に分割した。