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ファンにも伝わる挑戦の姿勢

 そんな変化をファンも感じ取っている。北九州市から来ているという50代の女性ファンは、「球団の名前が変わったころから、設備がすごくきれいになった」と語る。20年以上、ホークスを応援しにドームに通っているという。

 以前は「ドームの座席にホコリが積もっていて、『こんなところから見るのか』と思ったこともあった」が、最近は「球場もきれいになって、商業施設も増えた。昔に比べると、うんと活気がある」という。ドーム買収もよい成果を生み出たようだ。

 ソフトバンクは12年、コロニー・キャピタルから球場を買っていたシンガポール政府投資公社から約870億円で球場を買収。年間約50億円かかっていたドーム利用料がなくなり、設備維持費を考慮してもコスト削減になった。また、現状復帰義務がなくなったことで設備の改修をしやすくなった。

球場を買収したことで改修がしやすくなった。以前に比べると設備が新しくなり、広告が増えた

 例えば、応援席のシートの色を変えて命名権を売った。観客は「コカ・コーラシートを1つ」といったように観戦チケットを購入するわけだ。ほかにも客席の外周エリアをチームカラーの黒と白でリニューアルした。

 ポスターで埋め尽くされていた掲示板を撤去し、取り付けた液晶ディスプレーで映像広告を流したりした。シーズン外には映像に切り替えるなど、ドーム利用イベントの誘致をしやすくなったという。「最近はシーズンのたびに球場のどこかが新しくなっている」と、ソフトバンク傘下になってからファンになったという30代の男性は笑う。

 チーム成績がよくなり、客席が満員になることも珍しくない。ドームが自社所有物になったことで、最近になって一部施設を撤去して座席数を増やしたりもした。

 センタースクリーン横には大型モニターを設置した。広告看板だったころの3割ほどの費用で5つの広告映像を流し、収入を1.5倍にするといった施策もできた。球場買収で、ますます企画・営業の担当者ができることが広がった。

 球場が活気付くと、併設する飲食店などの誘致もしやすくなった。英国風パブ「HUB」を運営するハブは、初の九州進出先をこのドームに決めた。野球観戦をしながらお酒が楽しめる特別席も用意し、オフシーズンも営業をする計画だ。もはやホークスとドームは、街の中心になったといっていい。

 平成で最も売られてよかった企業。それは福岡ソフトバンクホークスかもしれない。

日経ビジネスの5月13日号特集「売られた社員 20の運命 シャープ、東芝、タカタにいた人の今」では、多くの売られた会社を取材し、社員の運命を左右するM&Aの実態を追った。