全3587文字

 06年にソフトバンクが英ボーダフォン・グループの日本法人を買収し、携帯事業に参入すると、営業先は一層広がった。

 そして営業活動を強烈に後押ししたのが、球団の強化だ。「チームが強くなることが一番ありがたい」(吉武氏)。ダイエー時代の初優勝を飾った99年以降、ソフトバンクが買収する2004年までホークスは毎年リーグ首位争いをする好成績だったが、買収後は成績が低迷。08年には勝率4割5分、リーグ6位に沈んでいた。しかし孫正義オーナーの「めざせ世界一!」という宣言通り、最新の練習設備を整え、三軍制を導入して選手層を厚くするなどの強化策が徐々に花開く。

 10年に再びリーグ優勝を果たすと、以降はほぼ毎年優勝争いを繰り広げる常勝チームとなった。「お化けフォーク」で知られる投手の千賀滉大選手や、「甲斐キャノン」の異名を持つ強肩捕手の甲斐拓也選手など、三軍出身の選手もリーグ優勝に貢献。選手育成でも他に類を見ない実績を出している。

ホークスのリーグ順位。けが人続出するも、今年も首位争いを繰り広げる
注:2019年は5月6日時点

 球団が強くなると、それだけ放映権が高く売れる。試合に勝つほどに視聴率があがり、「その分、球場に出す広告もスポンサーが付きやすくなる」(吉武氏)。球団関連のイベントは盛り上がり、ファンの来場数も毎年のように増えていった。

 その熱気が伝搬するように、球場周辺には商業施設が充実しだした。18年には大型商業施設「MARK IS 福岡ももち」が営業を開始。20年には球場に隣接する球団の自社ビルが完成し、ドームと連携して野球だけにとどまらないエンターテイメント施設として事業展開する計画だ。

 ソフトバンク傘下になって社員の給料も上がった。元々、野球事業の企画・営業をしていた会社の主業はホテル運営。社員の給与水準も福岡県のホテル従業員の水準だった。

 それがソフトバンクグループ基準の給料になり、昇給の制度もかわった。評価の仕方は大きくかわらないが、「100点満点の減点方式から、働き次第で150点や200点といった評価も得られる加点方式になった」(深町氏)。チームが優勝した時の特別ボーナスなども含めれば、ダイエー時代に比べて「年収が1.5倍以上になった社員もいる」(同)という。

 福岡ソフトバンクホークスの球団経営やマーケティング事業は、人材や働き方といった面では買収の前後で特に変化があったわけではない。コロニー・キャピタル傘下の頃は経営改善のために様々な制約があったが、ソフトバンク傘下になってからは「自主性にまかせてくれている」(吉武氏)。それでも、社内の雰囲気は「以前とは完全に別物」(深町氏)だという。

 ソフトバンク入りで戸惑ったことをあえて挙げると「急に会議で横文字が増えたこと」(吉武氏)。ソフトバンググループの社員と会議をするたびに、今まで使ったことがないような言葉が飛び交う。最初は「コンサバってどういう意味だ?」「アグレッシブなプランって、つまりどういうこと?」「コンセンサス……。意味は分かるが、なぜ横文字で言う?」などと戸惑っていた。が、そんな“横文字会議”にもすぐに慣れたという。