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遅すぎた売却

 タカタは結局、製造業として戦後最大規模の破綻後、米自動車用安全部品メーカーのキー・セイフティー・システムズ(KSS)に約1700億円で買収された。KSSは中国の寧波均勝電子が親会社で、事実上、中国資本に買収されたとも言える。

 明らかに「手遅れM&A」といえる。買収交渉関係者の間では「もっと高く身売りする方法はいくらでもあった。重久氏のメンツが会社を追い込んだ」との見方が多い。

 ただ、残っている社員がどうなっているかと言えば、「待遇も働き方もほとんど変わっていない。重久氏の側近も駆逐されずいいポストに残っている」と今もタカタ社員と交流が続くOBは証言する。

「腹は立つけどいないと困る」

 というのも、米国でのリコールが問題になって破綻に追い込まれた同社ではあるが、実は国内は「超」がつく優良事業。日本に限れば高い技術力とライバルの少なさから「腹は立つけど、実際に倒れてもらっては困る」(ホンダ関係者)と、仕事は減らなかった。

 また、自動車の開発は販売までに5年以上の期間をかけることもざら。エアバッグをどうするかは設計の初期段階で話し合われ、その後のエアバッグ供給元の変更などは事実上不可能だ。そのため、今はまだリコール問題が大騒ぎになる前に決まった受注でやっていける状態が続いているようだ。

 一連の騒動で転職者が増え人数が既に減っていたため、「買収されてから特段のリストラもない」と現役社員は話す。「だから拍子抜けするほど前と何も変わっていない。何をするにもいちいち米本社の決裁を仰がなくてはいけなくなったのは煩わしいが、正直転職しないでよかった」(同)

 売るべき時に売り遅れても、本当に卓越したビジネスモデルを持っていれば、売却後も社員が「平和」でいられる場合もある、というわけだ。

 しかし安寧がこれからもずっと続く保証はない。新車の今後のモデルチェンジでタカタ製品が外されていく可能性は高い。タカタ社員にとって、今は単なる嵐の前の静けさなのかもしれない。

日経ビジネスの5月13日号特集「売られた社員 20の運命 シャープ、東芝、タカタにいた人の今」では、多くの売られた会社を取材し、社員の運命を左右するM&Aの条件を追った。