市場の成熟や後継者不足などから企業の再編が進んでいる。日経ビジネス5月13日号「売られた社員 20の運命 シャープ、東芝、タカタにいた人の今」では、M&A(合併・買収)で売られた会社の社員にどんな境遇の変化があったかを追った。

 一般的に、破綻した企業など再建のために買収された企業では、仕事量の増加やリストラといった社員にとっては厳しい職場の変化が起こる。だが、その変化の大きさは企業によって全く違うようだ。

会社価値を沈めた判断

 優良企業を破綻に追い込んだ一因は、長期にわたって社会の「常識」に背を向け続けた自らの姿勢にあった。

 2017年6月26日、世界の自動車業界を揺るがした大手企業が、東京地裁に民事再生法の適用を申請した。シートベルトなどの安全部品で高い世界シェアを持ちながら、欠陥エアバッグの異常破裂問題を起こしたタカタ。製造業では戦後最大の経営破綻となった。

タカタ製エアバッグの異常破裂による死者は、海外で20人を超えるとされている。写真はイメージ(写真=PIXTA)
タカタ製エアバッグの異常破裂による死者は、海外で20人を超えるとされている。写真はイメージ(写真=PIXTA)

 同日に記者会見に臨んだ創業家の高田重久会長兼社長(当時)は、「すべての関係者、債権者にご迷惑をおかけすることとなり、心より深くおわびしたい」と陳謝した。米国で最初に製品の異常破裂が確認されたのは2004年。08年に初期のリコール(回収・無償修理)が実施されてからも、既に約10年が経過していた。

 タカタは米国で死亡事故が相次いだ後も、「リコールの是非は完成車メーカーが判断する」との業界の原則論を主張し、消極的な姿勢に終始。トップの説明責任も十分に果たさず、批判の声が高まった。

 態度を硬化させた米運輸当局の指示によって、16年にタカタは世界規模のリコールを余儀なくされる。対象台数は1億台規模に上り、経営状況は悪化の一途をたどることになった。社会の常識と乖離した対応で「社会の敵」と見なされたかのように多くの批判を浴び、苦境に追い込まれた。

 企業が向き合うべき社会的テーマは多岐にわたり、注意すべきは製品やサービスの品質に関わる不正だけではない。対応を誤れば、どんな企業も「明日のタカタ」になるかもしれない。

 あれから2年弱、タカタの社員は今、どんな境遇にあるのか。

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