世界で広がるMaaS(モビリティー・アズ・ア・サービス)。日本ではどのように導入され、社会をどう変えていくのか。気鋭の学者、伊藤昌毅・東京大学特任講師に聞いた。

<span class="fontBold">伊藤昌毅(いとう・まさき)氏</span><br />東京大学生産技術研究所特任講師。2002年慶應義塾大学環境情報学部卒業、同大学院を経て2009年博士(政策・メディア)。鳥取大学大学院工学研究科助教、東京大学生産技術研究所助教を経て現職。専門は交通情報学。国土交通省や経済産業省が設けた次世代モビリティー検討会の座長などを歴任。
伊藤昌毅(いとう・まさき)氏
東京大学生産技術研究所特任講師。2002年慶應義塾大学環境情報学部卒業、同大学院を経て2009年博士(政策・メディア)。鳥取大学大学院工学研究科助教、東京大学生産技術研究所助教を経て現職。専門は交通情報学。国土交通省や経済産業省が設けた次世代モビリティー検討会の座長などを歴任。

バス会社など地域の公共交通は総じて経営が苦しい。そうした中で、MaaSが解決策として期待されています。

伊藤昌毅氏(以下、伊藤):日本の公共交通は長らく、自治体から補助金を受けることをベースに、赤字の路線を維持するという曖昧な仕組みで動いてきました。運賃収入だけでマネタイズできると考えている人は少ない。でも、地域交通には例えば、高齢者の通院の足になることで寝たきりの人をできるだけ少なくするといった、単に交通の枠には収まらない価値があります。MaaSの導入にあたっては、人の移動を見える化し、これら「クロスセクターの効果」をどうあぶり出すかが重要になります。

 一方で、地域に小さなバス会社が乱立する状況は次の産業を生み出す意味では好ましくありません。日本ではタクシー会社が相乗りを誘導することは許されていませんが、空港から何人かの旅行者を募って中心地のホテルに行くような、デマンド型の交通の需要は高まっています。例えば、フィンランドでは、停留所は決まっているけれど、それぞれが行きたい場所を指定して、最も効率のいいルートを走るバスサービスがありました。様々な移動需要をマッチングし、交通機関の使い勝手を高めるのはMaaSの本質的な機能。世界では活発なサービス開発が続いていますが、日本は現状、法的整備の面で追いついていません。

公共交通を運営する会社の儲(もう)けを増やすための道筋をどう考えますか。

伊藤:バスやタクシーのコストは、その多くがドライバーの人件費です。自動運転が一般的になると、モビリティーの運用コストはかなり安くなります。そのうえで、どう稼ぐかを考える。例えば、モビリティーを広告媒体とする。あるいは小売店がバスを走らせる、という発想が出てくるかもしれません。要はモビリティーそのもので稼ぐというより、その先にあるビジネスが焦点となります。

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