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 デジタルの力で様々な交通手段を連携させて、移動の利便性を高める「MaaS(モビリティー・アズ・ア・サービス)」。全国各地で実証実験が始まっているが、果たして利用者の暮らしは便利になっているのだろうか。

 トヨタ自動車と西日本鉄道がスマートフォン(スマホ)アプリ「マイルート」の実証実験を2018年11月から行う福岡市。マイルートでは、アプリ上で目的地を検索すれば、電車やバス、サイクルシェア、タクシーなど様々な交通手段を使ったルートが示され、目的地に向かうことができる(「MaaSって何? 国内の最前線・福岡に行ってみた」記事参照)。

様々な交通機関を組み合わせた移動手段を示す「マイルート」

 「どのバス停で降りたらいいか分かりにくいし、かかる料金も分かりにくかったので、これまでバスを使うことはほとんどなかった」と話すのは市郊外に住む女性会社員(27)。友人からの紹介でアプリを使い始めたが「マイルートで検索すると、普段使う鉄道ではなくバスのほうが早く到着できることがあった。それからはどこに行くにもまずは検索している」と話す。

 西鉄がマイルートで目指すのは外出機会が減っているとみられる若い世代の移動需要の喚起。効果はまだ定かではないが、18年11月の実験開始から今年2月までに目標の3倍にあたる1万5千件のダウンロードがあったといい、「アプリで購入できるバスのフリーパスの安さもあるが、地元住民を中心に利用は増えているようだ」と西鉄の担当者は手応えを語る。

 一方で、市中心部にそびえる博多駅でバスを待つ70代の女性に声をかけてみると、こんな答えが返ってきた。「アプリって何? ここにある時刻表を見たら時間は分かるよ」。女性が手にしていたのはスマホではなく、いわゆるガラケー。いくらサービスが進化して便利になっても、利用には壁もあるようだ。

欠かせないフォローアップ

 こうした難点に突破口を見いだした地域もある。トヨタ自動車とソフトバンクが18年9月に共同設立した「MONET Technologies(モネ・テクノロジーズ)」が実証実験を行う愛知県豊田市北部の小原地区。ここでは、かねて運行されている乗り合いタクシー「おばら桜バス」の予約を、スマホアプリやAI(人工知能)スピーカーからできるようにする取り組みを行っている。公共交通機関が行き届いていない面もあり、買い物や通院で利用する高齢者や、最寄りのバス停から自宅までの移動に利用する住民も少なくない。

モネ・テクノロジーズがアプリ予約などの実証実験を行う「おばら桜バス」(写真=早川 俊昭)

 安藤佳代さん(80)も桜バスを利用する1人。高齢だが、スマホを自力で使いこなし、画面に表示された地図から乗降地点を選んで予約を完了させる。実証実験が始まるまではスマホを手にしたこともなかったという安藤さんが、アプリを使いこなす背景にはモネ・テクノロジーズによるスマホの貸与と使い方の指導がある。

「(モネ・テクノロジーズの)係の人が教えてくれた通りに操作すると、スマホが大きな声と画面で予約できたことを知らせてくれてね」と使い始めた当初を振り返り、うれしそうに話す安藤さん。「桜バスがなかったら、自分ではどこにも行けない」と感謝も語るが、MaaSを成功させるにはただサービスを導入させるだけでなく、利用者へのフォローアップも欠かせないことを表していると言えそうだ。

 4月29日・5月6日号の日経ビジネス特集「移動革命 MaaS 世界が狙う新市場」では、世界各地で取り組みが進むMaaSについて取り上げている。MaaS先進地の米国ではどこまで便利になっているのか。ビジネスチャンスはどこにあるのか。普及に向けた日本の課題は何か。多方面から探った。