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AIが最適ルートを導く

 「乗り合いタクシーをご予約された方はいませんか?」。伊豆半島の先端付近にある静岡県下田市の伊豆急下田駅で、到着したワゴン車から降りてきた男性が声を張る。観光地として知られるこの地では、東京急行電鉄やJR東日本が「観光型MaaS」の実証実験を4月から始めている。

二次交通の要として期待される乗り合いタクシー(静岡県下田市)

 使うのは「Izuko(イズコ)」という専用アプリ。現在地から目的地までの交通手段の検索をしたり、鉄道やバスのフリーパスや、観光施設の入場券を購入したりできるほか、地元タクシー会社が運行する乗り合いタクシーを呼べる。冒頭の男性はイズコで呼ばれた乗り合いタクシーの運転手だ。

 観光客の8割が自動車を利用しているという伊豆では、鉄道など公共交通機関で訪れる観光客の掘り起こしが課題。そのためには、最寄り駅に到着してから観光地を巡る二次交通の整備がカギとなっている。特に、江戸時代に日米和親条約の付帯協定が結ばれた了仙寺や、そこに至るペリーロードなどがある旧市街地は最寄駅から離れており、移動手段の確保が欠かせない。そこで導入されたのが、この乗り合いタクシーだ。

 4月5日にマスコミ各社を集めて行われた実証実験の体験会。乗り合いタクシーはイズコで目的地を入力して呼び出すと10分ほどで到着した。実際に乗って動き出すと、乗り合いタクシーが通る旧市街地の道路は狭いことに気づく。運転手は「旧市街地は観光スポットは多いのですが、道幅が狭くバスでは入れないところも少なくない」と説明してくれた。

 この日に乗車したのは記者やカメラマンばかりで、乗車時に途中乗車する旅行客の姿はなかったが、あらかじめ決められた市内16カ所の乗降スポットでは乗り降りが可能だ。路線バスや周遊バスなどとは異なり、人工知能(AI)が乗り合わせた人の行き先などから最適なルートを導き出して、利用者に快適な移動を提供するのだという。

 一方で、伊豆での実証実験でも課題は見受けられた。まずは福岡市のマイルートと同様に、アプリを使っての料金の支払いはまだ限定的な面が多い。実証実験では乗り合いタクシーの利用は無料だが、事業化にあたっては料金設定も必要になってくる。「課題は山積しているが、地域のあるべき交通の姿を実現するために、ITで世直しをしていきたい」と東急電鉄の森田創・事業開発室課長。利用者の不便を解消し、いかに利便性を高めていくか。

 4月29日・5月6日号の日経ビジネス特集「移動革命 MaaS 世界が狙う新市場」では、世界各地で取り組みが進むMaaSについて取り上げている。MaaS先進地の米国ではどこまで便利になっているのか。ビジネスチャンスはどこにあるのか。普及に向けた日本の課題は何か。多方面から探った。