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 日経ビジネスの4月22日号特集「強くなれる給料」では、優秀な社員を確保したり、世界市場に打って出たりするために、たゆまぬ給与制度改革に取り組む企業を紹介した。有識者への取材では制度も運用も柔軟な対応が必要との意見が多く出ている。人材研究所の曽和利光社長、マーサージャパンの井上康晴プリンシパル、パーソル総合研究所の佐々木聡コンサルティング事業本部長の3氏のインタビューを掲載する。

社員の個性に合った制度を 人材研究所の曽和利光社長

曽和利光(そわ・としみつ)
1995年京都大学卒。リクルートの人事部ゼネラルマネジャーやライフネット生命保険総務部長兼経理部長などを経て、2011年に人材研究所を設立。新卒採用や人事制度などを専門としている。

 人事制度には採用・育成・配置・評価・報酬・代謝の6つの機能があると考えている。いい制度、いい人事システムとは、それらすべての一貫性がとれていることだ。人事制度には流行がある。今だとノーレイティング(ランク付けをしない)、ティール(社員構造がピラミッドではなくフラットな)組織といった仕組みに取り組む企業が多くみられる。

 だが人事制度には本来は、流行などないはずだ。評価する軸が能力なのか、役割なのか、あるいは行動、結果、実績、年齢なのか。それぞれメリットとデメリットがある。一貫性をもって6つの機能の足並みがそろっているかが大事だ。

 今は「職能型から職務型に」という流れがあるが、職務の方が新しいからいいということではない。AIエンジニアでも職能給というところも普通に存在している。

 理想の賃金制度など存在しない。本来は6機能が事業戦略に沿ってつくられているかが大事なのに、給与・評価制度は独立して考えられがちだ。その会社にとってどんな制度が適しているかは、事業に合わせてつくられているかという一点に尽きる。

 流行しているものを最も良いと思い込んで取り入れると、むしろマイナスになることが多くある。職能型よりも職務型、あるいは行動よりも成果とか、日本企業の人事には「なんとなくの社会的望ましさ」がまん延している。会社を取り巻く課題に目を向けず、安直に流行を取り入れるのは非常に危険だ。

 人事にとっての顧客は社員であるということを忘れてはいけない。人事・給与制度がうまくいっている会社とそうでない会社の差は、社員のニーズを把握しているか否かだ。社内に「給与は差がつくドラスチックな制度がいい」という声もあれば、「仕事はみんなでしているもの。差をつけてほしくない」という意見もある。それなのに、自社の社員の個性を見ないで制度をつくっている会社が多い。

 給与・評価制度に創造性は必要ないし、本来は空気のような存在であるべきだ。制度が気になって不平不満が出てくるようではいけない。社員のパーソナリティー(考え方・個性)にあった制度であることが評価・給与では最も大事なことだ。