役員の報酬低く……日本の美徳は世界で通じず マーサージャパンの井上康晴プリンシパル

<span class="fontBold">井上康晴(いのうえ・やすはる)</span><br />1992年名古屋大学卒。外資系コンサルティング会社などを経て2012年にマーサージャパン入社。役員報酬などが専門。
井上康晴(いのうえ・やすはる)
1992年名古屋大学卒。外資系コンサルティング会社などを経て2012年にマーサージャパン入社。役員報酬などが専門。

 日本企業の経営陣はほぼ社内の生え抜きで占められている。このため経営者の転職市場が形成されておらず、米国と比べて役員報酬は低く抑えられている。

 確かに報酬の金額は増えた。1億円以上の役員報酬を受け取る上場企業の経営者は、2010年3月期に289人で18年3月期には538人だ。企業業績が好転したことや、業績と連動する報酬の割合が高まったことが要因だ。ただ米国企業のCEO(最高経営責任者)は、平均的な従業員の60〜70倍の報酬を受け取っている。日本の10〜20倍を大きく上回る。

 米国の飛び抜けた役員報酬にも欠点はある。一般従業員と格差が大きいと、会社の一体感を醸成するのが難しい。経営陣から「全社一丸となって頑張ろう」と呼びかけられても、現場の従業員の目には別世界の人々にしか映らず、しらけてしまう。また、米国企業の役員の大半は社外取締役なので、社内で出世して最後は役員になるというキャリアパスを描きにくい。

 これに対して日本企業では、「この会社で出世を続ければ最終的に役員になれる」というモチベーションが生まれやすく、長期的な視点で仕事に取り組むことにつながる。ただ、経営陣を社内の生え抜きで固めると経営判断が内向きになりがちだ。特に日本企業の経営者は証券市場への目線が弱いと感じている。

 報酬の水準が低いため、経営再建のような非常時にはプロ経営者を社外から招へいするのが難しくなる。2~3年なら高い報酬で呼び寄せても問題ないだろうが、10年といった長いスパンになってくると、ほかの役員との差が問題になる。

 役員は一般の従業員より大きなリスクを負っていることを忘れてはならない。会社で不祥事が起きれば責任を取らされることがあるし、置かれている立場は不安定だ。株主総会で人事案を否決されれば会社を去らねばならない。役員の仕事内容も一般社員とは異なる。資金繰りや競合他社の動きに目を配りつつ、利益や売上高を追求しなければならない。

 不安定な立場と大変な業務を安い報酬で引き受けている経営者を称賛する価値観は否定しない。例えば世界の主な自動車メーカーのトップの中で、トヨタ自動車の豊田章男社長の報酬額は大きく見劣りする。それはそれで立派だが、この美徳は日本国内でしか通用しない。海外から見れば、日本企業はしょせんその程度の報酬で雇える経営陣しかそろえていないと見なされてしまう。日本でも立場と業務に見合った役員報酬を支払ってもいいのではないかと考えている。

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