柔軟に変わるのが理想 パソナHRコンサルティングの金子良和常務執行役員

公益法人の人事担当のほか、国内不動産会社や人材会社の人事担当役員などを経て、2007年パソナ入社。評価・賃金制度などを専門とし、上場企業など数十社の人事制度構築を手掛けた。16年から現職。
戦後に提唱された年功型賃金制度はもともとは生活保障が目的だった。その仕組みはのちの高度経済成長ともマッチしていた。国の経済と賃金が同時に右肩上がりになることで、制度は破綻しなかった。
1970年代以降は「有能な人材を確保し、その能力を開発、発揮する動機付け」を目的に、能力に基づいて賃金を定める職能給の考えが現れ始めた。ただ、相当な割合の企業で結果的に年功序列的な運用に陥った。本来は「能力の発揮具合」が評価軸だが、年をとるに連れて自動的にランクが上がっていく仕組みになってしまい、人件費は上昇した。若手のモチベーション低下をも招く結果になった。
年功序列は成長期なら問題ないが、バブル崩壊後は立ち行かなくなっている。企業は長期の業績低迷で経営資源の効果的な配分が求められているし、上場企業の株主は従来の銀行や友好関係にある取引先から機関投資家へとシフトした。これが年功序列が問題になる要因だ。
その後の評価制度は年齢に基づく良くも悪くも「平等」な扱いから、仕事ぶりに基づく「公平」な評価へと転換した。投資家の圧力も人件費の効果的な配分につながり、成果型賃金制度への転換を促した。
労働市場が流動化し始めたことは大きな変化だと思っている。転職が一般化したことで、優秀な社員を引き留めるには年功序列では不可能になる。
経営の効率化や社員のモチベーション維持を、給与制度のみをもって実現することは困難だろう。給与の上下は結果に過ぎず、大切なのは「なぜその結果(賃金)になったのか」を本人が納得して受け入れられる評価制度であることだ。どうすれば給与・評価を上げていけるのかを示す助言や指導がなければ会社に対するロイヤリティーの低下も招いてしまう。
現状では多くの日本の給与・評価制度は社員が十分に納得できない状態であることが根本的な問題だ。上層部・評価者が裁量を行使するために評価基準の曖昧さを維持していることさえある。「制度があるから評価する」と本来的な意味を見失っている企業も少なくない。
理想的な評価・給与制度は画一的なものではない。未来永劫変わることのない評価軸などありえないし、時代の流れ、社員の成長に合わせ、柔軟に変わっていけることが理想の給与ではないか。
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